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作品名:ゆめのあるところで 作者:ao9mame

最終回   2
「おうい、きみの後ろにしょっていた赤ん坊はどうしたんだい!?」

 短い自己の忘失を経験した私は、すでに近くにまで迫っていた彼に向けて言葉を発した。

「んっ、ぼくは始めから赤ん坊なんてしょってなかったさ。それより君こそ、そんな に 背中に赤ちゃんを背負ってどうしたんだい?それじゃあ、腰が悲鳴をあげるってもんさ」


 彼の言葉で悪寒が走る。ふと、背中の方へ眼をやると3人ばかりの赤ん坊が私の背中に背負うというよりはくっついていた。不思議と重さがないためか、今まで全く気付かなかった。


「いつから、俺はこの子たちを背負ってたんだろう...」

「んっ、ぼくが対岸から向かう時には背中に何か動くものが見えたから、その時には既に背負っていたさ」


...では、彼と会った時にはもう、この赤ん坊たちは僕に寄生していたのか。

 彼らは、背中からおろそうとしても、どういうわけか力強くしがみついているわけでもないのに離れてくれない。それは、まるで俺の身体の一部であるかのようだ。

しかたがないので、首を回して彼らの顔を眺めてみた。

普通の愛らしい赤ん坊の顔とどこか違う3人の赤ん坊。

 1人は安寧な睡眠を続け、もう1人は絶えず口を動かし、別のやつは生命の永続を願うかのように幼いながらに新たな出会いを切望する目できょろきょろしていた。

俺の行動は全部こいつらに支配されている。無意識に萌芽するこいつらは人として生きる俺に動物の本能を見せつけやがるんだ。


 その瞬間、一瞬の狂気とともに短いモーツァルトの美しい旋律が流れだし、俺は自ら湖の中に飛び込んでいった。


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