地面には、無数の顔が落ちていた。笑ったり、悲しんだり、憎悪に満ち溢れたもの... どれも人の顔だった。まるで皮一枚ぺろんと剝したように薄いそれはまるで露店で売られているような乾いたペルソナのようだった。 「ほら、にいちゃん、見ててみ。ちょっと下に引っ張るだけさ。俺が出来るようになったのも最近だけどよぉ、なぁにコツを掴んじまえば朝飯前さ。なんつったって勝手に落ちる時もあるしな。終わった後、しばらくはしゃべれねぇけどよ、すぐにまた出来るんだ。いくぞ、ほれ」 そう言うと、おっちゃんは、右手で上顎をもう一方の手でおでこ辺りを押さえて下に引いた。つるんとおっちゃんの顔は剝がれてそこには茹で卵のようにつるつるした白いものしか無かった。手にはしっかり顔が握られていた。嬉しそうにこちらに目を向けている。 始めは新たな病気だとか感染するとか騒がれたその行為も今ではほとんどの人間が出来るようになり中には一枚めくるたびに若返ると信じて剥顔美容などと言われるものまである。 しばらく皆が顔をはがし続けたが、そのうち剝したまま新しい顔が出てこないというものが現れた。同じ症状は伝染病のように広まって数日後には誰もがみな顔がないつるんとした卵のような顔になった。顔がしっかり付いているのは私だけとなった。そのうちテレビから女優やタレントと呼ばれる人々が消えた。顔が売り物、みなが卵のようなので区別のしようがないからだ。はじめは顔がある私を羨ましがって様々なところから取材が来た。 しかし、そのうちに周りと1人だけ明らかに違う私は差別を受けるようになった。 (あぁ、なんで顔がとれないのだろう。この顔さえ、この顔さえなければ...) そう思い顔を押さえたとたん、ずるんという音とともに私の顔は勢いよく落ちて行った。
<<終>>
|
|