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作品名:山手商店街の愉快な仲間達 作者:Migeル

第1回   保育園は大騒ぎ
大型ショッピングモールに客足を奪われてしまい
シャッターが目立つようになってしまった古い商店街である山手商店街

雨が降ると傘をささないといけないほど至る所でアーケードが破れている

それでも他所の商店街と比べると格段に人通りが多い。
というのも、似つかわしくないほど立派な無料駐車場があるので
駅前ということもあり地元の人間が利用するから。

ここの土地は不動産業のごんちゃんが駐車場として提供している。


商店街の表からも裏からもちょうど真ん中に大きな保育園がある。
これはこの保育園で起きたお話です。

駅に近い表通りから入ってすぐに
スナックでもなく居酒屋でもない、いわゆる飲み屋の「かずちゃん」がある
そこにはいつも暇をもてあました商店街の店主達がまだ日の高いうちからたむろしている。

商店街に三年前に店を持った印刷屋のノブがガタピシ音をさせて引き戸を開いた。

「よお」中から馴染みのある声
商店街では繁盛している部類に入る駄菓子屋の店主タクである。

タク「チラシは、できたんかあ?」
ノブ「飲みに来たのにいきなり仕事のはなしか」
   
   わざと大げさに顔をしかめて言うノブ。

ノブ「秋の福引大会はどのみち盛況だから適当に作って、さっき組合長に渡して来たよ」

タク「さすが仕事が早いねえ」
ノブ「店を開けたまま飲みに来てる誰かさんとは違うって」

   今度はタクが顔をしかめてみせた。

ノブ「そういえばさっきタクのとこの坊主にあったぞ。少しみないうちに又、大きくなってないか」

  そういいながらタクの横に座った。

タク「来年小学生になるんだ、大きくもなるさ」

   ツマミのスルメをあぶったのをノブにもすすめる

ノブ「今年、保育園の年長さんか。最後の運動会じゃないか。パパがんばらなきゃだなあ」
   
   もらったスルメを口に運びながら茶化す。

タク「クラスが5つもあるから俺ひとりがんばったところで目立たないさ」
ノブ「かずちゃん、お銚子一本もらえるかなああ」

二人に背中を向けテレビを見たまま女将は右手をあげて返事をした。

常連しか来ないお店なので女将も適当。
勘定も適当。
客も女将のペースには慣れている。

ノブ「で、坊主ってなにぐみさんなの?」
タク「ん?」
ノブ「ほら、保育園なら「たんぽぽぐみ」とかあるじゃない?」
タク「ああ・・・キハダマグロぐみ」

   ノブは、くわえていたスルメを噴出しそうになった。

ノブ「なんだよそのネーミング、ごんちゃんのセンスか?」
タク「まあ、そういうところなんだろ」

   笑いながらタクもスルメをくわえる

タク「ただ、饅頭屋のヒロのところの子よりましなんだぜ」
ノブ「あの腕白相撲で小学生の高学年相手に優勝しちまった?」

タク「そうさ。ヒロのところも坊主のクラスなんだと思う?」
   笑うのをこらえながらタクが言う。

ノブ「当てたらお銚子一本だからな」
   腕を組みこれまたわざとらしく考えてみせる。

タク「当たればいいよ。クックックッ」
   当たるわけ無いとでもいいたげに笑う。

ノブ「おまえのとこの坊主がキハダマグロだろ、魚シリーズだとして・・・」
タク「おお、いい読みしてるねえ。でも当たらんだろうなあ」
ノブ「待て待て・・・・寒ぶり。 寒ぶりでどうだ。」
タク「寒ぶりってなんだ。ははははは」
   タクは椅子からのけぞって笑う。

女将が二人に目を向けることもなくテレビを見たまま
お銚子をトンとひとつカウンターへ置いた。

ノブも女将に目をやることもなくお銚子をとり手酌で飲み始めた。

ノブ「負けた負けた。で、なんだい。ヒロのところの坊主の組は?」
タク「越前くらげさ」
ノブ「クラゲと来たか。がはははははは」
   
   サラリーマン上がりには思えない豪快な笑いが店に響く。

ノブ「まったくごんちゃんのセンスどうかしてるなああ。」

ごんちゃんは一応園長という肩書きはあるが、むしろ経営者で本業は不動産屋だ。

バブル景気のころ東京とは比べ物にならないが
ここいらの地域も土地の値段が跳ねあがった。
不動産業をしていたごんちゃんこと田中ゴンゾウ氏にもたらふく金が舞い込んだ。

根がまじめなごんちゃんは贅沢するでもなかったので
金が金を呼び今では低金利なのに家賃と金利だけで
毎月高級車が何台も買えるほどの収入がある。

その収入で道楽のように始めたのが山手保育園だ。

地域活性のためと言って地域住人には無料で保育所の入園を受け入れている。
毎月のお月謝も当然無料。

かといって人件費や施設費をけちっているわけではなく
年小さん 年長さん 各5クラスあるのだが
クラスごとに先生は常時4人程度居るのである。

共働き家庭のためにと保育園は夜9時まであいており
晩御飯はもちろん、大浴場で子供たちと用務員の方たちが一緒に風呂を済ませる。

親が来るころには小さな布団をいっぱい並べて子供たちは熟睡している

勤務時間が長いので先生達がどんどんやめて行くかというとそうではない。

この不景気でどこの会社も残業禁止となっているのに
ごんちゃんのどんぶり経営のなせる業で残業し放題なのだ。

しかも給料は一般的な他の保育園の職員の2.5倍の給料と来ている。

一応3交代のシフトになっているのだが
みんな進んで残業をするため結果的に
常時4人の先生が居るという状態になっている。

ノブ「全部のクラス名がそんな調子なのかい?」
タク「いあ、名前には実はごんちゃんの深いたくらみがあるわけよ」
ノブ「深いって深海魚の名前とか?」と、茶化す。

   茶化されたのも気にせずタクは続ける

タク「5クラスあるんだけどひとつだけ当たりの名前があるのさ」
ノブ「当たり??」
タク「うちの子の学年だと当たりクラスは「いるか」になってる」
ノブ「ほぉお、確かに当たりだなあ。」
タク「なぜ、はずれが4クラスもあるとおもう?」
ノブ「またクイズかよ。今度当てたらお銚子だぞ」
タク「どうせ当たらん」
ノブ「寄付金が多い順とか?」
タク「ブブーはずれ。ごんちゃんいわく、小さいうちから我慢とか挫折とか味わったほうが人間として大きくなれるというのさ。
クラスの名前がハズレだとしても園児にはどうにもならない。
そういう理不尽さを身をもって感じれば、逆にささいなことでも喜びに変えれる柔軟な心が育つんだと」

ノブ「なんかごんちゃんらしいなあ」
タク「だがこれには裏話があるんだなあ」
ノブ「なになに?」

   身を乗り出して小声で聞き出そうとする。

タク「実はクラス分けは公平になるように入園前と年長にあがるクラス替え前に抽選で行われる」
ノブ「すごい人数で抽選やることになるなあ」
タク「そうさ、商店街の福引にも負けないさ。しかし緊迫感がまるで違う。プロ野球のドラフトなみさ」
ノブ「そりゃそうだ。「いるか」と「越前くらげ」じゃ大違いだ。」
タク「くじには当たりとはずれが書かれている。」
ノブ「ほうほう。」

   ますます身を乗り出す

タク「引いたくじを持って事務所に持って行き受付したもの順にはずれ組は決まる」
ノブ「キハダマグロも越前くらげも同じ扱いってことか」
タク「当たったくじはいつ持って行っても同じクラスってことになるだろ?」
ノブ「そりゃ1クラスしかないんだし、そうなるわな」
タク「となると受付は入園式までにすればいいってことになる」
ノブ「そうなるだろうな。」

タク「そこで、そのくじの闇取引始まるのさ」
ノブ「おいおい、なんだよそれ。結局金持ちだけがいいクラス名になるってことか」
タク「そうさ。酒屋のシゲジいるだろ」
ノブ「シゲジの店も量販店に客持ってかれててクラス名どころじゃないだろ」
タク「買ったんじゃない売ったんだ」
ノブ「そういえばシゲジは5つ子だったよな」
タク「5人中3人が大当たりさ。」
ノブ「そうはいっても、たかがクラス名だろ」
タク「甘いねぇ。この少子化で子供にかける金には糸目をつけない親がたくさんいるのさ。
大卒初任給が16万とか言われているこのご時世に当たりくじ1枚最低でも30万で取引されている。」

ノブ「ってことは最低90万?なにおおおお」
タク「甘いねえ114万で売れたそうだ。」
ノブ「それで配達の軽トラが新しくなっていたのか」
タク「そういうこと。ただ、これで話が終わらないんだなあ」
ノブ「金返せとか言われたか」
タク「それはない、クラス名に金を払おうっていう見栄っ張りな連中だよ。そんな連中が返せとか言えると思うか。」
ノブ「そうかあ、それはないか。」
タク「モンスターペアレントってしってるか」
ノブ「ああ、理不尽な要求を言ってくる親だろ」
タク「いるかクラスにはそれがこぞって集まったわけだ」
ノブ「ひいいい。俺耐えられねえわ」
タク「いるかクラスの4人の先生も耐えられなかった。で、全員1学期終了を待たずしてやめた」

ノブ「あとに来る先生は大変だなあ」
タク「そこはごんちゃんの人望さ、敏腕の先生が集まってモンスターを見事にいなしたそうだ」
ノブ「モンペ破れるか」
タク「ばあさんの破れたモンペみたくいうな」
ノブ「失敬失敬、じゃ、今年は抽選会は中止したのかい?」
タク「さすがにごんちゃんも腹に据えかねるものがあったようだが抽選会はやった」
ノブ「じゃ、当たりクラスを増やしたか」
タク「いあ1クラスだけさ」
ノブ「じゃ変わらないじゃないか」
タク「ああ、同じようにお金に困っている人間はくじを売り、金に物をいわせるような連中がそれを買った。」
ノブ「で、また、先生がやめた・・・?」
タク「違うんだな、生徒がやめた。」
ノブ「どういうことだ?」

タクが空になった銚子を振り催促する

ノブ「わかったよ。かずさあん、お銚子よろしく〜」

タク「今年は当たりクラスの名前がはずれで、はずれクラスの名前が当たりの名前になったわけだ。」
ノブ「金返せとは言わないまでも、園長にクレームがあつまるだろ」
タク「当たりクラスだけ入園式間近に受付に来るだろ。
   はずれ組はすでにみんな手続きが完了しているわけだ。
   つまりクラスを変えることがその時点では出来ないことになる。
    となると当然、連中は園長であるごんちゃんにクレームを付けに行った。

    しかし平然とした顔でごんちゃんがやってくれたねえ。
   「私はみなさん、ご存知のように小さいころから我慢、挫折を覚えてこそ人間に深みがでると教えています。
    だから今年は当たりのクラスこそ「海ゴカイ」という名前がふさわしいと判断しました。」とね。」

ノブ「ゴカイと来たか。ゴカイで誤解が解けたわけだ。」
タク「そうさ、そしてノブが言うところのモンペ一掃にもなったわけだ。」
ノブ「ごんちゃんの高笑いが聞こえてきそうだよ」
タク「後ろで鼻すすりながら居眠りしてるさ」
ノブ「ありゃごんちゃん居たんだ。かずさ〜ん、ごんちゃんに半纏かなにかかけてあげてえ」

タク「今年の年少さんは4クラスになったけど運動会はやっぱり盛況なんだろうなあ」

ノブ「ごんちゃんの挨拶が聞きたいわ」


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