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作品名:偉人の帳面 作者:涸井一京

第1回  
 ぼんやりと窓の外を眺める。僕の感情と無関係に夕焼け空がきれいだ。また夏休みの一日が失われる。陽の沈むのが早くなった。レースのカーテンがふわりと盛り上がった。足を撫でる風が冷たい。日焼けした肌に優しい。ツクツクボウシが鳴き始めた。「まだ残っている」と「もう終わる」が交錯する。
 宿題は読書感想文だけとなった。取りあえず明日、本屋へ行くしかない。
 
 足が向くのは漫画売場だ。見ているだけでも楽しいから、しばらく眺めている事にした。しかし、それではいつまで経っても、頭の中の鬱陶しい空気は去らない。これを解消するために、ためになる本が並ぶ棚に足を向ける。児童書が並ぶ。人名がたくさん並んでいる列が目に入る。「僕は偉人になんかならない」そう心の中でつぶやいた。面白い本を読みたいのだけれど、目的はそれではない。感想文は書きやすいが、偉人伝は退屈だ。我慢して、読みたくない本の中からどれを買うか考える。読書の習慣をつけるために、読書感想文なんて宿題を課す。その目的とは逆に読書が嫌いになる制度だ。全く、教師の頭とはめでたいものだ。
しかし、僕の名前は、将来この棚に並んでしまうのだ。僕は、極めて優秀だ。自分が望まない事だが、仕方がない。
 家に帰る。苦痛の時間の始まりだ。興味があるのは一点のみ。なぜ偉人はこんなに記憶力がいいのか、という事。子供時代の事を事細かに覚えている。偉人だからこそこんなに記憶力が良いのだと感心した。その行動は唾棄すべきものだ。中々進まない。読み終えても、筆が進まない。第一読書感想文よりも大事なものがある。僕は、日記を書き続けている。将来、僕の偉人伝を書く作家が困らない。


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