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作品名:手下無き山賊 作者:涸井一京

最終回   1
うまい、実に美味い
俺はなんて優秀な人間なんだ
こんな美味い物を簡単に手に入れる
そして、それを堪能する舌がある
心の余裕もある

人通りの多い駅前の花壇に腰かけて
右足を左の膝にかける
精力に満ちたギラついた顔
敵を威嚇する野生の眼
脂で固まった団子状の髪
伸びっぱなしの髭に埋もれた口を動かす
山賊の棟梁の気分で周囲を睥睨する
他人を軽蔑の目で見る快感
食べ物を獲得した満足感が漂う
そう、獲得した物が食物である事が重要だ
生物の優劣は食を得る能力で決まる
食べ物を獲得できなかった通行人たち
優秀な己だけが、食べている
生命力の源は食べ物だ

厳重に鍵をかけてあるごみ箱から
弁当を盗み出した
その優秀な技術に酔う、乞食
店に対する勝利に酔う乞食

野生の動物が、エサになる相手の同意を得るのか

通行人は働いて得た金を持っている
その金で然るべき時間に
然るべき場所で食を得ている
不安の無い生活を送っている

腹が減った時に食う
それが自然だ
時間が来たから食う
なんて不自然だ
しかも奴らは自然を称賛する
なんという愚か者だ
金は、不安を解消しない
あると、いつか尽きるのではと不安になる
あればあるほど、これで足りるのかと不安になる
少ししかないと
何を買うかと考えるだけでウキウキする
あり過ぎるといかんのだ

お前の方が薄汚れている

こっちが正常だ
奴らが神経質なだけだ
その綺麗な服を買うために
奴らは会社に飼われ
毎日苦しみながら働く奴隷だ
会社から解放される休日を
待ち焦がれるだけの人生
何物にも囚われない
その事がいかに素晴らしいか
知らないわけもない
毎日、奴らが待ち焦がれる休日の自分
一匹狼の自由人

お前は、博打で身を落としただけだ

一か月分の労働を片手で弄び
右から左に移すのは快感だ
しかし、ふと気付いたのだ
動かしたのは、紙にすぎないのだ
そして俺は、生物として再生した


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