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作品名:虫の息 作者:涸井一京

最終回   1
死ぬ準備をしている
死期を悟った訳ではない
数字を見て、そうすべきと考えた
人の本能は鈍り、知識を基に行動する

他人に迷惑はかけたくない
ほっとけば、遺品となるものを処分する
が、自分の死体だけは、自分で処分できない
頼れる者もいない
放置されても構わないが、迷惑な話だ
死ぬ前に姿を消すという野生動物に憧れる
私も死期を悟れば、山に入りたい
死期でもないのに、入れば苦しむことになる
私は死期を悟れない

いつかやろうと思っていた
そのいつかが来た
と言うより終わりが来た
長く放置してあった物を片付けた
虫の息の虫がいた
最後の力を振り絞り、ごそごそ動き出した
隠れるまでには至らない
そんなに人の目が嫌なのか
殺して捨てようと考えた
止めた
慈悲ではない
潰した時に指が汚れるのが嫌だった
それに次に目にする機会は無い
虫は、見事に姿を隠すだろう
見えないのは、いないのと同じだ
どこか目のつかないところで死ぬだろう


我こそ生命を奪う者なのだ
我こそ自然が恐れる外敵なのだ
野生動物が死期を悟るというのは、野生を畏怖したい人間の願望
文明を否定して、嘆いて見せるのが賢人の証拠
死ぬ姿を見せないというのは、そうありたい人間の希望
虫は死期を悟りはしない
いつもと違う、弱っている自分に気付くだけ
外敵から隠れて、体力の回復を図っているだけ
そしてそのまま死ぬだけ
自然は、お前に教訓を与えるために存在するのではない


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