@【BAR KAME】 濡れたアスファルトに写る歪な街の灯りを見詰めていた。 絶望とか、死とか、意味の無い事に執着してみたいと思う。 排他的な世界に溺れる事が出来るのは、責任なんてモノが関係無い今だけだ。 私は、買ったばかりのメンソールの煙草を握り潰してため息を吐いた。 現実の世界に意味は無い。 映画のように目を閉じて別世界に行きたい。 『高校生が禁煙か…贅沢だな』 スーツにネクタイの男が私に声を掛けた。 外回りの営業に見えない事も無いが何かが違う。 だらしない着こなしは、営業マンと言うよりチンピラだ。 『オジサン、誰?』 私が訊くと片手を軽く上げて、まぁまぁと身振りで示した。 『誰?そして、何?』 睨む私を見て男が笑う。 『気にするな。オジサンは若い娘が好きなだけだ。って言っても俺まだ二十八なんだけどな。』 『ウゼッ。変態に用は無いの。それとも私を買いたいの?悪いけど他当たって。私、興味ないからそう言うの』 『分かった。分かったよ。ムキに成るなよ。消えるから』 男は首の後ろ辺りを掻きながら面倒臭そうに言うと、私の住むマンションの方角に歩き始めた。 私は一瞬迷ったが開き直って男と同じ方向に歩き出した。 駅を過ぎ、二番目の角を右に曲がる。 直ぐに現れる点滅信号の交差点を左に折れる。 男は、私と同じ道をワザと選んでいるかのように見事に私の前を歩いて行く。 ケーキ屋を過ぎたら直ぐに私の住むマンションが見えてくるという所で不意に男が振り返った。 『女子校生。お前も変態なのか?変態オジサンの後に着いて廻っても何も無いぞ』 『知るか!帰る方向が、そっちなんだよ』 『ん…まぁ、勝手にしろ』 男は、全く信じていないとあからさまに解る表情で答えると通りの隅に投げ倒されていたネオン看板を起こし『ガキ共が』と毒づいてから目の前の建物に入って行った。 私は唖然としたまま、男が起こし上げた看板を見詰めた。 看板には、倒れた際なのかそれ以前に壊れていたのか判別出来ないような大きな亀裂が二本走っている。 突然私の視線の先でその看板が、暗くなり始めた街を感じたのかジジッと小さく呻いて灯りを点した。 『BAR…KAME…変な名前。』 無愛想なネオンが、何故か暖かくてか私は微笑んでいた。 家に帰り着いても落ち着かなかった。 かと言ってネットの世界では物足りない気がして家を出た。 両親は私に無関心だ。 彼等には、優秀な兄さえ居れば後はどうでも良いのだ。 雑誌でも買おうと思ったのだが、何故か足はあのネオン看板が出ていた場所に向いていた。 躊躇い無く壊れた看板の先にある男が消えたビルに入る。 決して清潔とは言えないエレベーターで二階に向かった。 エレベーターを降りて直ぐの味気無いドアに無愛想に『BAR』と書かれたプレートが貼り付けられていた。 『一階の案内にはキチンとBAR KAMEと書いていたのに』 私は仕方無くフロアの端から看板を一つ一つ確かめた。 アケミ、弘美、エンペラー、blue、どれも冴えない名前の店が並んでいたがスナックやクラブと銘打たれた店だけでBARは、初めの店しかなさそうだ。 『変態の店?』 私は、少しだけドアを開き,頭だけ突っ込んで店内を見回しながら訊いた。 『やめろ、聞こえが悪いだろ?』 私を見ながら男が答えた。 店内は静かにjazzが流れている。 『どうせ、客居ないじゃん』 私は、男を認めると妙に嬉しく成って開きかけのドアを勢い良く引いた。 『今から来るんだよ。それより帰れよ女子校生』 男がカウンタの向こうで氷を砕きながら言った。 『何で?』 『酒しか出さねーぞ』 『良いよ飲めるから』 私は勝手に止まり木に腰を降ろした。 『未成年者には出せない事。知ってる?』 『知ってる』 『なら、帰れよ』 男が出て行けと手を振る。 でもそれは、どこか優しく棘がない 『女子校生を買うことは出来ても、女子校生に売る酒は無いんだ?』 『お前、無茶苦茶だな』 『どうでも、良いよ』 『んっだよ』 困った表情の男は首の後ろ辺りを掻きながら面倒臭そうに言った。 A
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