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作品名:みどりの本 作者:杓 獅ス孤

第9回   9・冬の風・
ピンポーン・・・。
 「新宿警察ですけど」
 「もういいよ、あがって」
 いつも通り、みどりは冷たい。
 「ちわーす」
 「今日は鍋だよー」
 「いいねぇ〜」
 ぐつぐつ音をたてる鍋。
「もう準備OKやん」
「ほんとタイミング良いよね、しげるはぁ」
 「やっぱ俺とみどりは合うねんなぁ〜」
 「あったり前じゃん」
 「ほな、乾杯する前に一つ、俺から重大発表があります」
 「オーディション?なんか受かったの?」
 「留学します!」
 「ええぇ!どこに!どこに!?」
 驚いた顔を俺に近づけて聞くみどり。
 「京都です!」
 「京都って日本の!?」
 「そうや」
 それ以上は何も聞いてこないみどり。乾杯もしていない晩酌が、みどり主導で始まる。
 「みどり?みどりちゃん?悲しいとか、寂しいとかないん?」
 「京都でしょ、すぐ会えんじゃん」
 ワールドワイドな考え方。
 「でもしばらく会われへんで」
 「しばらく会わないつもりなの?」
 みどりの返しに、ドキッとする。
 「会いたい気持ちがあれば絶対に会えるよ。会えないことなんて絶対ない・・・」
 鍋のせいなのか、頬を赤くするみどり。
 「みどり・・・結婚しよ」
 「それは早い」
 「そこはダメなんやなぁ。」
 (会いたい気持ちか・・・たかだか京都やもんな。)
 「よっしゃ!W都でこれからもつながっていこう!」
 「そうだよ!W都で頑張ろう!」
 前向きな二人は、前向き鍋をつつき、前向きにこの夜を楽しんだ。
 
 鍋も終わり、片付けを少し手伝おうとすると、
 「いいから、しげるはゆっくりしてて」
 「へーへー。ほんじゃベランダでタバコ吸ってていい?」
 「え!しげるタバコ吸うの?」
 「ここ二ヶ月ぐらいで吸うようなってん」
 「今になってグレ始めたんだね」
 「二十歳越えとるっちゅうねん」
 「ベランダ寒いから中で吸ったら?」
 「いいねん、みどりの家のベランダが好きやねん」
 そう言うと、一人、ベランダへ向かう。
 右手にはミルクティー、左手にはピースライト、遠くには東京タワー。
 洗い物が片付き、ベランダに出て来るみどり。
 みどりは夜景を見ながらそっと俺に寄りそう・・・。
 「ええ景色やな・・・」
 「目に焼き付けといてよ、この景色・・・」
 「そやな・・・もう当分は見られへんもんなぁ」
 吸った煙を吐く、それを見ていたみどりが、
 「なんだか不思議だね、しげるにタバコって」
 クスクス笑うみどり。
 「何もおかしいことあれへんがなぁ」
 「新鮮で笑っちゃったの。・・・タバコ吸ってる横顔、カッコイイよ」
 そう言って、頬にKissをするみどり。
 もう何も驚くことはない。今の二人には何が起こっても不思議なことなどない。
 タバコを消し、みどりとKiss。長い夜の長いKiss・・・。
 冷たい夜風が二人には、とても心地良かった・・・。


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