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作品名:みどりの本 作者:杓 獅ス孤

第8回   8・モヒカンストーリー・
剃ったサイドがスースーする。
 人生初のモヒカン、みどりに剃ってもらったモヒカン。モヒカンではオーディションにはいけない。キャラが立ちすぎて書類面接も落ちるだろう。明日からは書くことに集中する。俳優という逃げ道は(安定しているとは言えないが)作っておきたくない。
 ベッドで眠るみどりに、
 「おやすみ・・・」
 とささやき、ソファーで眠る。

 携帯のアラームが鳴る。時刻は六時五十分。いつもならバイトに行く時間。今日は休みだが、体内時計は起きろと言う。アラームを消し、もう一度目を閉じるが眠れそうにない。寝ているみどりを起こさないように忍び足で冷蔵庫へ。ミネラルウォーターを取り出し喉を潤す。歌をやっているだけあって、加湿器はフル稼働。自宅で感じる起き抜けの喉の痛みはない。ボーとしながらテレビをつける。最小限にボリュームを落としたテレビを見るともなく見つめる。
 これからのこと、昨夜のみどりの料理、加湿器の効能などをマンガのふき出しのように思い浮かべていた・・・
 「はやいね・・・おはよう・・・」
 「あっ起こした?」
 ベッドから抜け出したみどりはすぐさま冷蔵庫に向かい、ミネラルウォータを口にする。
 ミネラルウォータを飲み終わったのを見計らい、みどりに尋ねる。
 「今日のご予定は?」
 「今日はっと」
 そう言うと、俺の座っているソファーに腰をかけ、目の前のテーブルにある手帳を開く。
 「今日は午後から学校、夜からバイトだね」
 「そっかそっか、ほんじゃ今日も一日がんばらナイト」
 みどりの頭に、ぽんぽんっと手をのせ、帰り仕度をする。玄関まで見送ってくれるみどり。
 「そや、最後に聞かせてほしいんやけど。みどりってオペラ一本でやっていくん?」
 「そうだよ」
 即答。
 「あっさり言うねぇ・・・一つ疑問やねんけど、なんで事務所に入ったん?」
 「スカウトされたから」
 「スカウトなんや・・・」
 みどりの美貌ならば納得はできる。
 「オペラ一本でやっていくんやったら、いつかは事務所辞めんの?」
 「辞めるよ」
 これまた即答。
 「バンバン答えていくねー」
 笑顔でうなづくみどりは清々しい。
 「もっかい聞くけど、なんで入ろうと思ったん?」
 「お金もいらないし、ただで自分の可能性を試せるならいいかなーって思ったの」
 (なんかカッコエエなぁーこいつ)
 「今後のみどりの展望を聞かせて」
 「展望?うーん・・・再来年に卒業して、歌を教えてもらっている先生に、推薦をもらって、イタリア留学する。絶対に」
 「カッコエエなぁーみどりちゃん!」
 未来の展望をこれだけはっきりと言いきるみどりに尊敬。みどりに触発された俺は、テンションが上がる。
 「AllOk!俺も一から頑張るはぁ!」
 「頑張ってんじゃん、しげるは」
 「俳優辞めて、脚本書くはぁ」
 「えっ!」
 驚愕したみどりを尻目に、
 「さらばー青春!」
 と言い去った。
帰りのバスの中では(はよ家帰ってペン握りたいはぁ)とうずうずしていた。

ペンを握って一時間、一行も書けない。足の裏には汗がにじむ。中学、高校の試験勉強をさせられている時のようだ。
 「あーしんど!」
 部屋の中で叫ぶ。漠然と書く姿勢に入っても何も書けない。もう一度、一人演技のパターンを思い出す。
 あの世界観はどうして作れたのか?
 ポイント、一人演技の核となったReggaeのような点がいる。点をみつけないと。部屋の中ではみつからない。

 翌日からは点となりそうなものは全て携帯にメモることにした。メモする基準は笑いに関連するもの。
 点をみつけることを意識して日々生活すると、この世のほとんどの人が主役になれる素質を持っていると思った。
 点のみつけ方に慣れると、昔のことでも何でも物語りにできると思った。
 バイクのフカシで夢を与えるヤンキー・ライブでドラムのメロディーに酔ってサックスを吹くのを忘れ、ずっと舞台で踊っている演者・ガラガラの電車内でわざわざ隣に座る、近いおっさん・などなど、毎日の出来事が今考えてみれば、宝だった。
 点がみつかればペンは動く。気ばらしにと吸い始めたタバコ休憩を入れつつ、年内の目標であった短編十本を書き上げた俺は、すぐさまキヨミズ兄やんにお披露目に行った。
 力技で雑な文章というのはわかっているが、早くキヨミズ兄やんに見せて、ダメ出しをもらい、スキルアップしたい。
 気づけばこの二ヶ月で、書く楽しさに目覚めていた。

 キヨミズ兄やんの住む西荻窪まで、鼻息荒く出向く。
 「おーしげる!」
 改札で待っている俺に叫ぶキヨミズ兄やん。
 象が吊ってある商店街を抜け、キヨミズ兄やんのマンションに招待される。
 「なんか西荻窪も下町って感じで良い雰囲気ですね」
 「ええやろ、やっぱ中央線添いが一番やで」
 「僕の短編の方がええですよぉ〜、では見て下さい」
 鞄から十本の短編を取り出しキヨミズ兄やんに渡す。
 四百字詰め原稿で、一本が五枚ほど。
 「これで十本って一本えらい短いんやなぁ」
 予想以上の短編をじっくりと読み上げていく。
 キヨミズ兄やんが読み上げている間、小さいベランダに出てタバコを吸う。みどりの家で感じた高揚感ではなく、ベランダから見る西荻窪の町は、安心感を与えてくれる。
〔コンコン〕
 中からキヨミズ兄やんが窓を叩く。タバコを消してすぐさま中へ。
 「どうでした?」
 「やっぱしげるは一本、一本、柱が明確やから読みやすいけど、量的な問題はあるなぁ」
 「やっぱ少ないですよねぇ」
 「それと、一つの柱は見えるけどその他がダラダラしてるなぁ」
 「力技でやってるって感じでしょ?」
 「そやなー・・・これは十本全部ボツやなぁ」
 「AllOk!その言葉を待ってたんです!」
 「どういうことやねん?」
 「書き始めて二ヶ月、自分の足りへんもんがよくわかりました。そいで、その足りへんもんは自分ではどうしようもでけへんことがわかりました。だから本格的に書くこと勉強しよう思てるんです」
 「学ぶって学校とか行くんか?」
 「それなんですけど、何かええとこ知りませんか?」
 「最終的に俺かい!ちゃっかりしとんなぁ〜しげるは」
 〔使えるものは何でも使え〕母の格言。
 「東京から離れてもええんか?」
 「全然Okです、学べるならどこへでも」
 「ほんじゃぁ・・・大学時代のツレんとこ行くか?」
 「大学の知り合いに作家がいるんですか?」
 「京都で寺やりながら劇団の脚本書いてるはぁ」
 「行きたいです!すぐにでも!」
 「やる気バンバンやなぁ、ほな今電話してみるはぁ」
 思い立ったが吉日。
 「うん・・・あっそうなん・・・わかった、じゃぁ・・・」
 キヨミズ兄やんの顔は険しい。
 嫌な予感・・・。
 「しげる・・・」
 「は・はい・・」
 「来年二月から寺住み込みを条件にOKやって」
 「まじっすかぁ!ありがとうございます!・・・ちゅうかなんでそんな深刻な顔するんですか!」
 「ハハハ!なんかおもろいかなぁ思て」
 (おもろないはぁ)
 「質問なんですけど、寺住み込みは家賃とかいるんですか?」
 「いらんやろ。その分、寺の手伝いさせられると思うけど」
 「いいですねぇー!住めて、働けて、しかも学べるって最高やないですかぁ!」
 「そうゆうことにしとくはぁ」
 最後の最後にキヨミズ兄やんは遺恨を残す言い方をしたが、俺はあまり気に止めなかった。
 「キヨミズ兄やん、今日はほんまにありがとうございました」
 「他力本願のしげるのことはずっと忘れへんはぁ。頑張れよ」
 (この勢いで次のステージでも突き進むぞ!)と、事故で止まっていた中央線の車内から、心の中で叫んだ。

 年明け早々、バイトでお世話になった文太君に別れを告げに行った。
 「ほんま二年間ありがとうございました」
 長居をしてしまうと涙が出てしまいそうだったので、短いお礼
 を言い、去ろうとした時。
 「いつでも寄れよ、お前の顔見たら元気がでるけんのう」
 文太君に抱きつきたいのを抑え、ガッツポーズで茶漬け屋を後にした。その足でみどりの住む街へと向かった。


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