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作品名:みどりの本 作者:杓 獅ス孤

第7回   6・Jazz・
とにかく会って話す。携帯をプッシュ。・・・ ・・・ ・かかった!
 「どしたのしげる?」
 緊張が一瞬にして解れる。
 「相変わらずハスキーやな〜」
 「何よそれぇー。で、どしたの?」
 「あの・・・今夜一杯どうかなー思て」
 「いいよぉ、どこにする?」
 「ほな、渋谷で一個行きたい店あんねんけどええかなぁ?」
 「いいよ、私は十九時ぐらいからOKなんだけど、しげるはぁ?」
 「AllOk!俺もそれぐらいやから、ハチ公前十九時にしよか?」
 「うん、わかったぁ。じゃぁまたねぇーバイバイ」
 まさか、今日会えるとは、思いもしなかった早い展開に戸惑いながらも、自分を奮い立たせる。
 「全身で受け止めたらぁ!」

 十九時、ハチ公前。
 「お待たせ!」
 「おう、おつかれっす。久々やねぇ」
 「ほんとだね、結構待った?」
 「レコード村まわってきたからジャストやで」
 「ほんと音楽好きだよねぇー」
 「うっせぇ!」
 「なんでキレるのよう〜」
 「これが大阪の親しみの込め方やねん。ええがな、とりあえず行こや」
 
 今宵チョイスした店はJazzが流れ、全体的に静かな雰囲気がフロアーを包む。みどりと話すにはとっておきのロケーション。
「今日は、音大帰り?」
 「そうだよー、もう少しで試験だから頑張らないと」
 「日々精進やね。ワリカンやけど、飲みね」
 この店は雰囲気が良いだけでなく、お酒も料理もいちいち美味しかった。食が進むと話も弾む。楽しい雰囲気を止めてまで先日の話を切り出すか迷う。(この先もみどりと交わりたいんやったら、根性みせろ!)
 「あのさ、みどり」
 「うん?」
 ちゃん付けをやめたことにも気づかないみどり。
 「この前のライブの時に一つ気になったんやけど」
 「うん?どしたの?」
 「いやあの・・・人目気にしすぎるっていうた時、みどりの顔こわばってたけど・・・」
 みどりの顔が引きつる。
 「そんなことないよ」
 「いや、完璧顔こわばってた!しかも、今も引きつってるし!」
 「引きつってないよ!」
 「引きつってるやないか!コラ!」
 「引きつってないもん・・・」
 (やばい、言い方間違えてもうた)お酒の力も働いたのかもしれない。みどりは泣いた。
 「ごめん・・・言い方悪かった・・・」
 「う・う・・ちょっと・トイレ行ってくる」
 (今日はもうあかんなぁ・・・やってもうた)
 薄暗いフロアーには、俺とみどりのやりとりを気にする人は誰もいない。(この店でよかったほんま)
 帰ってきたみどりの目には少し涙が残っていそうで、いつこぼれ落ちてもおかしくない状態だった。
 「ごめん・みどり・・ただ、俺はみどりの歌声が好きで、そんな尊敬できる人と知り合ったからには、もっとその人のこと知りたくて」
 うつむいたままのみどり。
 「この前、みどりの顔こわばったように見えたから。その裏に潜むもんを知りたいねん」
 「裏って何よ」
 涙声ではあったが、少し笑いがその声の中には交じっていた。
 「裏ってその・・・とにかくもっとみどりのこと知りたいねん!」
 ・・・沈黙。
 「ほんと、大きいよね。声」
 「あ、ごめん。とにかくあの時何があったんか教えてや」
 「ありがとう。そんなにしげるが考えてくれてたなんて・・・」
 この後、みどりは理由を話し始める・・・。

 みどりは目に特徴がある。良く言えば、凛としている。悪く言えば、目つきが悪い。
 時は中学二年生。とかく浮き世は色と酒。大好きな先輩から言われた、
 「お前目つき悪いよ」
 それが理由でフラれたみどり。何年も経った今も引きづっているらしい。
 「そいつのこと引きづるぐらい好きなんや」
 「いや、話聞いてた?その時に言われた〔目つきが悪い〕って言葉を引きづってるの」
 「コンプレックスってことか?」
 「うん」
 それと、あの日のことにつながりがあるとは思えない。
 「論が破綻しとるがな」
 「なによ?」
 「みどりはぁ、目つきが悪いって思われたくないんやろ?」
 「うん」
 「ほんなら笑った方が良いに決まってるやん」
 「そうだよ」
 (なんやこいつ酔っとんのか?)
 「いやいや、あの時俺は、笑ったみどりってあんまみたことないなぁーって言うたんやで」
 「うん」
 「そいで、みどりが〔私って笑ったら変でしょ〕って言うから、俺は笑った方が良いって言うたんやで」
 「もういいよ!とにかく私は、自分の顔にコンプレックスがあるの!だから、笑顔とか、顔に関することを言われると、昔のことを思い出すから嫌なの!」
 (ほんまわからん、こいつはぁ)
 「あーなんか気にして損したなー」
 「なんだと〜!」
 みどりの怒りを感じた。
 「まぁまぁ、中学の頃のみどりを知らんからなんとも言えんけど。俺は目つきが悪いとは思わんし、みどりの目は一つの魅力やし・・みどりは綺麗やで」
 呆れた顔で俺を見つめるみどりは、ほんとに綺麗だった。
 「結婚してくれぇーい」
 「ばか」

 みどりのコンプレックスをなんとなく理解した俺は、美酒と美女に心おきなく魅せられながら、最高の夜を過ごした・・・。

 翌日、胸に昨日の美酒を残しながら、朝の八時にバイトへ向かう。
 二日酔いは、生きる昨日を停止させる。今の俺には、夢やみどりのことはどうでもいい。家に帰って眠りたい。それだけ。
 この世の終わり。そんなテンションを吹き消した、昼休みに入った一報。初オーディション、連ドラの主題歌。主題歌?
 「俳優志望の僕がなんで歌のオーディションに行くんですか?」
 「何事も経験だよ、け・い・け・ん。行くの?行かないの?どっち?」
 圧迫感に負けた。俺は渋々オーディションを受けることになった。

       7・アップダウン

 「どうだった?オーディション」
 「ほんま最悪ですよ!歌詞はとぶは、音程はメチャクチャで」
 電話の向こう側で、スタッフの笑い声が聞こえる。
 「大体、歌のレッスンなんかろくにしてない僕がなんで歌のオーディションなんですか?」
 「それはそうなんだけどね。演技を受けもってる先生が君の表現力なら、少々歌が下手でも、おもしろいかもしれないって言うからさぁ」
 表現力アリ、ということか!?
 「まじっすか!?表現力褒めてくれてましたか!?」
 トーンのUP、DOWNの激しさに戸惑うスタッフ。
 「う・うん、なんかすごいみたいだね。一人演技も優秀賞獲ってるしね。これからは演技のオーディションも多くなると思うからフットワーク軽くしといてね」
 「はい!お願いします!」
 携帯を握る手は汗まみれ。(これはきとるんちゃうか!)
 追い風がかすかに俺の背中を押している気がした。
 そう、それはまさに気のせいだった。あの時に感じたのは向かい風だった。

 確かにあの日以来オーディションは増えたし、他の事務所から選抜された輩よりも表現力で勝る俺はオーディションには受かった。しかし次のステップで問題を起こし、全てがパーになることが続いた。
 例えば〔お前のことが好きだ〕この台詞を彼女に近づきながら言うという場面で監督は、
 「絶対に、十歩でこの台詞を言え!」
 と指示を出す。
 〔お前のことが好きだ〕こんな短い台詞を十歩かけて言えるはずがない。体内に火照るものを感じた俺は、
 「おー」
 一歩。
 「まー」
 二歩。
 「えー」
 三歩。
 という調子で、絶妙なスロー演技を披露した。それでクビ。
 事務所からも、
 「何をやっとるんだね君は!」
 怒り心頭。
 そんなことが続き、負のオーラが充満している俺は、(今日も監督の呆れた声を聞くんかぁー)と考えながら、新たに受かった現場へ向かう。

 「えー今日は先に渡してありました台本を、皆さんが把握しているものとして立ち稽古からやっていきます」
 ジャージ姿の群集に埋もれる自分を俯瞰する。
 ここ最近の負の連鎖に、自分が掲げた〔笑い〕というテーマも忘れて監督にどうにか気に入られようとしている自分がそこにいる。そんな自分に嫌気がさす。
 「おい!茶屋町!君の番だよ!台本を読んで設定した演じるキャラクターの説明を一通りしてみろ!」
 どうでもいいよ。仏作って魂入れず。俺の演技プランに対して、案の定、否定的な声が跳ね返ってくる。足元から徐々に上半身へ震えが伝わってくる。いつもと同様の火照りが体内へ充満していく。冷静に今の状態を感じているのに、次に自分が発した言葉には驚いた。
 「こんなしょうもない脚本なんか、どう演じてもしょうもないもんはしょうもないんじゃ!」
 これで俺は終わり。
 「もっと俺がおもろいって思う脚本書いてみい」
 〔お前は一体何様なんだ〕
 誰も口にはしないが、現場を出て行く俺の背中に無言のメッセージが突き刺さる。
 日曜日の午後三時、心地よい時間帯。心境は火曜日の午後二時。見るもの全てがどんよりしていた。突然廊下に声が響いた。
 「おーい!おい!しげる!」
 「キヨミズ兄やん!」
 事務所の先輩。京都から俳優になるために上京してき清水さんだ。
 「お前どないしてん?」
 「いや、なんかもうわかんないっす・・・」
 俺のドン底ぶりを見て、キヨミズ兄やんはただごとではないと感じたらしい。
 「とりあえず今日は十九時で稽古終わるから、ちょっとそこいらで時間潰して待っとけ」
 「はい。」

 十九時まで近くのカフェーで待っている間、立ちくらみの回復待ちをするように、目をつぶり、ここ最近の失態を頭に描いては消して、描いては消してを繰り返す。
 (何故俺は東京にきた?演技とは何ぞや?結局俺は何をしたい?生きる価値、俺にそんなものない。死にたい、この世から存在を消したい。
 気持ち落ちすぎやろ。まだいける。何が?何ができる?わからん。何もわからん)
 自分の中で問答がループする。

 鳴る携帯。時刻は十九時前。
 「はい」
 「どこおんねん?予定よりはよ終わったんや」
 俺のいるカフェーでキヨミズ兄やんとおち合い、居酒屋で話を聞いてもらえることになった。
 「俺は生で、しげるどうする?」
 「僕はライムチュウハイを」
 「食べ物は?」
 「キヨミズ兄やんにまかせます」
 「ほいじゃ、ずりの塩と、なんこつから揚げ、だし巻き、お前も一品ぐらい頼めや」
 「はい。じゃあ・・・シーザーサラダで」
 注文が終わって一分経たない頃に、ドアをノックする音。
 「お待たせしました」
 キヨミズ兄やんが声を上げる
「はやっ!」
 生とライムチュウハイが超高速でやってくる。
 「よっしゃ、とりあえず久々の再会を祝して乾杯!」
 キヨミズ兄やんの天性のテンションの高さは人を引き寄せる。その中の一人が俺。
 「ほいでどないしてん?あん時のお前、あれが演技やったらオスカーいけんで。ほんま怖かったはぁ」
 「何か、ここ最近、自分の演技プランのことで、監督とカチあうことが多くて、とうとう爆発してしまったんです」
 その時、キヨミズ兄やんの目が鋭くなったのが分かった。
〔トントン〕
 「シーザーサラダとずり、お待たせしました」
 鋭い目をいつもの温和な目に戻し、
 「はい、おおきに。しげるはシーザーのタマゴ潰す派か?」
 「あ、はい、お願いします」
 無言でシーザーサラダのタマゴを潰し、二つの皿に盛る。
 「はいよ、シーザーサラダ」
 「ありがとうございます」
 そして、俺がシーザーに手をつけようとした時、
 「しげる、お前何年目や?」
 「えっ?」
 「演技やり始めて何年や?」
 静かなトーンに、ピリピリしたものを感じた。
 「一年経ったぐらいです」
 「そうやんなぁ・・・一年目のペーペーが演技プランとかあんま語んな。自分はど素人ですって声高に発表してるようなもんや」
 かなしばりにあったかのように、キヨミズ兄やんを見つめる。
 「演技プランは監督が考えるもんや。俺らはそのプランを想像する力を持って現場に行かなあかん。人が想像することを想像することほど難しいことはないぞ」
 (結局俺は井の中の蛙か。自分の中の世界観だけを押し付け、人の世界観を吸収することから逃げてただけやったんかぁ・・・)
 するとキヨミズ兄やんはテンションをグイっと上げて、
 「ハハハ!そんな暗い顔すんなや!お前、ここ来る前より顔色悪くなってるがな!」
 ・・・苦笑するしかなかった。
 「今のはあくまで俺の考え方やから、気にすんな。この世界に正解なんかないねん。しげるはしげるのやり方でやったらええねん。信念を曲げんことも大切や」
 ・・・信念・・・
 「キヨミズ兄やん、ほんまありがとうございます。さっきまでこの先のことまったく考えられへんかったんですけど、こうやってこれからのこと真剣に話してくれると、ほんま救われます」
 「救われたなら食え食え」
 俺にはまだまだやれることがある。少し、負の毒素が体内から抜けていくのがわかった。
 手つかずのシーザーサラダやズリに手をつけ始める。
 「おい、しげる」
 (なんやねん、ちょっと食わせよ)
 「はい」
 「俺事務所辞めてん」
 青天のへきれき。
 「えー!いつ辞めたんですか!?」
 「つい最近や。仲間内で自主制作のレーベル作ってん」
 「そうなんですか!すごいじゃないですか!よくわからないんですけど、すごいんですよね?」
 「いや、レーベル作ること自体は、すごくはないやろ。でも一発当たるもん作れたら、デカイやなぁ」
 「なんかすごいですねぇ!」
 箸を置き、ライムチュウハイで興奮を飲み込む。
 「そこでや、お前の一人演技見してもろてんよ」
 「ありがとうございます」
 「しげるは俳優としてもさっき言うたようなことに気ぃ使えば上にいけるかもしれん」
 再びキヨミズ兄やんの顔がキリっとする。
 「でも、あの一人演技で魅せたような世界観を、撮る側で魅せるのもおもろいかもしれんで」
 撮る側?
 「撮る側って、監督ってことですか?」
 「そやな、監督でもええし、脚本書くのんもおもろいんちゃうか?」
 「それは考えもしなかったですねぇ・・・」
 「お前は良くも悪くも自分独自の世界観、しげるワールドを持ってる。だからその世界観でお前しか作られへん作品を書いて、撮るって方がしっくりくるんちゃうか?」
 俺にしか作れないもの。
 「脚本書いてみるか?短編でええから」
 「へっ!?俺が書くんですか?」
 「そや、うちのレーベル使って一回お前の世界観試してみるか?
うちはいつでも受け付けるから」
 「まじっすか!?」
 「声でかいなぁー、書くんやったら連絡くれ。別に強要はせんから。しげるはまだ若いし。自分の知らん才を発見できるかなぁー思て声かけたんや。」
 「ありがとうございます。なんかテンション上がってきました」
 「テンション上がったら、食え食え」
 心の浮き沈み。深く沈んでいた俺を引き上げてくれたキヨミズ兄やん。浮いてみれば、何故あんなことで沈んでいたのか疑問に思う。浮き方も沈み方もわからない浮き沈み激しい人生がこの先も続くと思うと、心の中に影が残る。影を抱きながらも前に進むべき。ところで、出し巻きとなんこつから揚げはまだだろうか・・・。

 キヨミズ兄やんと飲んだ日以来、悩みに悩む日々。
 脚本か俳優かの二者択一。
〔〜しながら〕が小さい頃からできなかった。そんな自分を知っている。だからこの二つのどちらか選択することは、一つを捨てることにもなる。
 「あー、どうしよ」
 二十一歳、茶屋町しげる、運命の選択。
 「よし、髪切ろ」
 髪を切ったからといって、一つ選択できるわけではない。どこかしら変化がほしかった。
 「もーし、久々」
 「しげるどしたの!?全然連絡つかないからさぁー」
 「落ちてたんや、もうドン底まで。ほいで限界やから、とりあえず髪切ってくれへんか?」
 「落ちてたって・・・どしたのよ?」
 「それは、また言うよ。とりあえず切ってくれへん?」
 「いいけど、ハサミ無いよ」
 「適当に100均で買って行くから。いつする?明日は無理?」
「明日は、夜なら、二十時以降OKだよ。しげるは?」
 「AllOkや!ほな二十時頃行くから、住所教えて」
 「うち来るの!?」
 「当たり前やろ、あかんのかいな?」
 「そんなことは・・・でも・・・」
 「そんじょそこいらの男やないで!理性が安定してるしげるちゃんやで!なんも心配することないよ!」
 「うん・・・わかった」
 「AllOk!ほな明日よろしく!」

 翌日、100均でハサミを買い、みどりに教えてもらったバスに乗って家へ向かった。
 東京へ来て初めてのバス。見慣れない町並みにワクワクしながら、教えられた停留所を見逃すまいと、神経を研ぎ澄ます。
 無事目的地に着き、みどりのマンションを確認する。すぐ横にスーパーがあったので、女性が喜ぶ〔豆乳バナナ味〕を買い、マンションへ向かった。
 「おーさすがに、オートロックか」
 電話で聞き出した部屋番をプッシュ。
 「はーい」
 「あのー西淀警察ですけどぉ」
 「どこそれ?もういいよしげる、入って」
 オートロックが開く。
 部屋の前でインターホンをプッシュ。
 「はーい、ドア開いてるよー」
 「無用心やなー、おじゃましまーす」
 リビングには大きなピアノが窓際にあり、本棚にはイタリア語で書かれた本がいくつも並んでいる。
 「今お米炊いてるから、髪切るのちょっと待ってねー」
 「うん・・・」
 窓からは、東京タワーが微かに見える。
 「何か東京って感じやなぁ・・・」
 「どして?」
 「イメージやイメージ。ええ部屋やなぁ。家賃なんぼ?防音やから高いんちゃう?」
 「そんなことないよ、八万。音大生は安くなるの」
 「八万!?安いな・・・あっこれ土産の豆乳バナナ味、ここ置いとくな」
 豆乳をテーブルに置き、窓際へ戻る。干し物は無い。
 「べランダ出ていい?」
 「いいよぉー」
 ベランダから受ける冬の風は心地良い。東京へ来て、何も成し遂げてもないのに、ベランダから見える東京の街は俺に充実感を与える。(前に進まな。後ろは振り返るな。俺はいける)何とも言えない力が俺を包む。
 「東京タワー見えるのわかる?」
 米を炊き終わったみどりがベランダにでてくる。風になびいた髪の毛を耳にかけるしぐさが美しい。
 「みどりはほんま綺麗なー・・・」
 「何言ってんの、ほんと軽いよねぇー」
 「軽くても、重くても、みどりは綺麗やで・・・よし!髪切ろう!」
 みどりを置き去りにしてリビングへ戻り、ハサミを取り出す。
 ベランダから戻ったみどりに、シーツ代わりのゴミ袋を被らされていざ風呂場に出陣。
 「どんな感じにするの?」
 俺の背後にまわったみどりが鏡の中の俺に話しかける。
 二つに一つ、もう決めた!
 「モヒカン」


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