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作品名:みどりの本 作者:杓 獅ス孤

第5回   4・大海・

 井の中の蛙、大海をしらず。とりあえず、大海をみとけ。
 中学、高校と、持ち前のエンターテイメント魂でまわりから重宝がられていた方だと思っていた。
 「茶屋町が行くなら、俺も行く」
 金魚のフン。中学や高校の小さいテリトリーで重宝がられたぐらいで、俺は調子に乗るほどバカではない。内輪ではない東京で認められてこそ、本物だ。
 グリーンベレーでは、毎年レッスン生を対象とした、一人演技のコンテストを行っている。その開催が半年後。まづはそこで一番星を獲って即戦力と見なしてもらい、仕事の話が舞い込むように日々精進するだけ。表現したい点、何か一つをみつけることでなんとか形にできるはず。
 レッスンが始まって半年間、レッスンに励みながら、一つの点を常に探してきた。みつかったのは、年明けの成人式がきっかけ。
 地元の友は皆ReggaeにどっぷりDopeにはまっていた。〔Always〕を語尾につけていた友は、今は語尾に〔Yahman〕をつけている。ヤーマン、Jamaicaで使われている挨拶らしい。俺もReggaeのリディムにホの字になり、一人演技は、
「Jamaicaが舞台で決まりや!」
と単純極まりない理由で点はみつかった。

 「僕は、ういろう売りがたまの休日にJamaicaへ渡り、輪を作ってReggaeを歌っている集団に交じって、ういろう売りの台詞をReggaeのリディムに乗せて歌う。というのをやります」
 俺の演技・表現力は、同じ空間にいた皆さんを東京からJamaicaまでトリップさせてしまうほどの、他を圧倒する絶大なる世界観を魅せつける結果になった。自画自賛。
 なにはともあれ、今年の最優秀賞に選ばれた茶屋町しげるくん。
 肩を落しながら帰っていくレッスン生を横目に、事務所のお偉い方と今後の方向性について軽い打ち合わせをする。
 会場には事務所のお偉い方と、俺と、レッスン生が一人。
 打ち合わせが終わると、すぐさまロビーに向かう。ロビーに待たせていた一人のレッスン生に近づき、背後から、
「お待たせ!」
 と言うと、彼女は不意をつかれて驚いた表情で振り返り、ぎこちなく言う。
「お・おめでとう・・しげる」


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