東京は大きい。大阪を離れる時の漠然とした不安を、立ち並ぶいくつもの高層ビル、デパート、ブランド店が楽しみ一色に俺を染めあげた。 新宿から少し離れた下北沢のアパートに着くと、荷物を下ろして探検に出かけた。 下町の雰囲気を醸し出す下北沢は地元を思い出させ、歩けば歩くほど、この町を好きになった。 「もう夕方やん」 オレンジ色に染まった空、地元を思い出させる下北沢の町、おのぼりさん気分も薄れてくる。これからは一からのスタート。知り合いもいない、土地勘もないこの東京で、一人で世界を作りあげていくんや。ふと現実に戻った俺は、古本屋へ入り、エロ本を買って帰った。 翌日からは郷愁や観光気分に振り回されることもなく、バイト雑誌を二冊買い、手早くバイトを決めた。 都心に近づけば近づくほど時給は高い。交通の便利が良い新宿の茶漬け屋で働くことにした。月給約二十万。まかないをもらえるのが嬉しい。 今までいらなかった生活費と芸能プロダクションへ入るための軍資金を稼ぐために、ビシバシ働くしかない。
東京に来て一年間は〔茶屋町流一人暮らし〕という自分のスタイルを築き上げることに専念した。 分かったことは、自分はなかなか節約上手だということと、難しいと思った東京の路線事情はあまり難しくないということ。そしてもう一つ、関西・関東に限らず、おばさまがセレクトするジーンズには可愛い動物の刺繍やワッペンがほどこされているということ。 なにはともあれ、軍資金も貯まり、虎視眈々とオーディションに動き始めた二十歳になりたての夏風蒸せる八月。
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