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作品名:みどりの本 作者:杓 獅ス孤

第2回   1・茶屋町しげる・
高校卒業後、入学が決まっていた大学には一度も行かず、中退することにした。
 学びたくないものを学び、知り合いたくない人々と知り合って四年間を過ごすことなど考えられなかった。では、大学へ行かずして何をする?
 「東京へ行って俳優をする」
両親は怒り心頭、っと思ったが、〔子は宝〕東京へ行くことを決めた十九歳の夏、姉に第一子誕生。初孫に夢中な両親には、息子の将来などおかまいなし。なにはともあれ、難関と思われた両親からの承諾も得て、いざ東京!・・・っとその前に、これから大阪を離れる俺のために、ささやかな送別会を地元の友が淀川で開いてくれた。
 ユニコーンと天狗を飼い、家のトイレは火星とつながっていると言う友。サッカー未経験者だが、サッカーでゴールを決めた後のポーズを常に考えている友。語尾に〔Always〕をつける友。人の家のドアを開けっぱなしで帰る友、etc・・・。
 決して尊敬できる友などいないが、一緒にいると違和感がなく、心地良かった。
 八月の淀川は、夏の暑さと湿気が交じり、嫌がらせのような匂いを醸し出していた。
「くせになるこの匂いともお別れか・・・」
宴も竹縄、お開きにしようとしたその時、むこうの方から小気味の良いバイクの音が響いてくる・・・兄やんだ。
 〔パッパッパ、パイーンパッパッパ、パイーン〕
兄やんはバイクをフカシつつ話に入ってくる。兄やんのフカシが激しくなればなるほど、トークに勢いが増す。フカシてトーク、フカシてトーク。やがてトークが一山も二山も越えた後、沈黙が訪れる・・・。
 しばらくすると、兄やんが今日イチのフカシルーティーンを魅せてくれる。とても心地良い。
 各々がこの音色に魅せられて、星空の下、夢を描く。
笑い、平和、仲間、愛、お金。
今日イチをフカシ終えると兄やんは何も言わず、フカシながら去ってゆく。
俺達の心の中には夢が残る。
東京でやってやる。


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