啓吾は寝室を出て、居間に入っていった。熱のせいで意識も朦朧としていた頃と比べれば、体は以前のように軽くなり、頭もはっきりしていた。ずっと部屋から出ることがなかったので、こうして初めて出て見ると、この家がアイーダの家と比べて、生活感のはっきり滲み出る雰囲気を持っていることに気が付いた。様々な使い古された家具類は掃除が行き届いているようで、埃は殆どたまっていない。床もかなり古びた板が張られているが、しっかり磨かれていて光沢がある。それでも、家の壁や床、その他あちこちに傷が付いている。壁紙もかなり時間の経ったもののようで、所々が色褪せていた。廊下の隅には子供の玩具らしいものが箱に窮屈そうに押し込まれている。家の中は果物の香りが漂う。果樹園を営んでいるのだとダフニから聞かされていた啓吾は、これはその果物の香りなのだと理解した。果物を早朝に収穫して市場に出荷し、生計を立てている。年間を通して温暖な気候とはいっても冬はある。その時は収穫しておいたストックの果物でジャムやマーマレードを作り、それを市場に出しているとのことだ。 部屋に食事を運んでくれるダフニは色々と話を聞かせてくれた。自分の罹った熱病は、風邪のようなものであって風邪にあらず、土着の夜行性の虫に刺された際に菌を移されてのものだったとダフニは話していた。人から人に感染するものではないというが、体の衰弱がかなり激しく進行し、時には死に至ることもあるらしい。詳しい話はよく分からなかったが、一時は肺炎という病気に至っていたらしい。安静を取っていたが、今朝になり、やっと「もう立って出て歩いてもいい」と言われたのである。その時はダフニでなく、目付きの鋭い大男が部屋に入ってきてのことだった。その男がダフニの夫であるクリッジであることは、その場にいたダフニが教えてくれた。 啓吾はこの家に来て以来、姿を見掛けなかった銀のことが気になっていた。ダフニが言うには、クリッジはグリフィスを飼い、訓練しているトレーナーだとのことだった。そう言えば、自分を拾ってくれたあの兄弟のうちの弟分の少年が同じことを言っていた、そんな記憶が甦っていた。 啓吾は居間を通り抜け、玄関に出ると、家の脇にある一本道に出た。空は相変わらずの若緑色をしており、所々に白い雲が、ちぎった真綿のようにぽっかりと浮き、風に乗ってゆっくりと流れている。日差しは柔らかく心地いい。排気ガスを撒き散らす車両が一台もないせいか、空気が限りなく体に優しい。アイーダと共に過ごした村でもそうだった。神楽坂の自宅のベランダで吸う空気とは全くの別物だ。啓吾はすうと胸いっぱいに息を吸い込んだ。体に力が補われる感覚を覚える。 視線を道の向こうに向けると、通りの向こうから一台の台車を引く大男がこちらに向かってくる様が見えた。クリッジがグリフィスの飼育小屋から戻ってくるところだった。台車を家の敷地の中に入れて止めると、クリッジは台車の取っ手から手を放し、空になったグリフィスの餌用の特大バケツを下ろし始めた。 「あ、あの……」 啓吾はクリッジに声を掛けた。ベッド際で一度見たあの大男がじろりと啓吾のほうへ振り向いた。啓吾の顔を数秒ほど見つめると、視線を再び台車のほうへ戻し、黙々とバケツを下ろした。 「あ、ありがとうございます」 後に、このクリッジが自分を軽々と抱えて寝室まで運び、件の虫に刺された箇所を、干した薬草を煎じた湯で何度も丁寧に拭き、熱冷ましの効果のあるベネウォリアの花を煎じた茶を作り、ダフニに言って飲まさせたという話を聞いていたのだ。 「助けてくれて……」 バケツを片手に三個ずつ持ったクリッジは、啓吾の横を無言で通り過ぎていった。啓吾はクリッジの背中を目で追いながら振り返った。ふとクリッジは足を止め、 「病み上がりだ。無理をするんじゃない」 と一言残し、家の中へと入っていった。低く、どすの利いた声であったが、どことなく温かさを持つ声でもあり、啓吾は内心ほっとした。啓吾の目にはクリッジが「怖いおじさん」にしか見えていなかったせいもある。クリッジの放つ雰囲気は、父親の須藤にはない、何かしらの大きな「壁」のようなものであるという風に、啓吾には感じられていた。 裏庭で洗濯物を干していたダフニが姿を現した。 「ケイゴ、起きたのね。うん、元気そうな顔になったわ。良かった」 そう言うとにっこりと微笑み、手招きをした。 「いらっしゃい、お昼にするわ」 「はい」 啓吾は返事をすると、小走りでダフニの傍へ行った。
「ケイゴ、来い」 クリッジが啓吾を呼んだ。この声で呼ばれると、どうもどきりと心臓が跳ね上がる感じがしてならない。別に何か怒られるようなことをした覚えはないのだが。啓吾は呼ばれるままにクリッジの傍へ行った。 「背中を見せてみろ」 クリッジは言うと、啓吾の身に纏うトガ様の布を上へたくし上げた。そして背中の何箇所かを手でさすり、つまみ、そして軽く叩いた。クリッジには「軽く」のつもりだったろうが、小柄な啓吾にとっては十分に響くもので、前へ二、三歩ほどよろめいた。 「サキュバウムの刺し傷はもう癒えた。大丈夫だ。後で一緒に来い」 クリッジは啓吾に言った。サキュバウムと言うのが,恐らくは件の夜行性の虫の名前であろうと啓吾は思った。しかし、「後で一緒に」何処へ行くのだろうか? きょとんとした表情を浮かべた啓吾に、キャセロールのような鍋を持ってきたダフニが声を掛けた。 「あの虫で熱病になっちゃうと、私達人間は大丈夫なんだけど、何故かグリフィスには移っちゃうのよ。運が悪いと死んじゃうこともあるの。だから、ケイゴの傍にいたあの銀色のグリフィスの雛をパパが預かっていたの」 銀色の羽毛のグリフィスとは「銀」のことだ。啓吾はそう思うと、 「銀は? 銀は元気なの?」 とクリッジに訊いた。クリッジはその険しい目付きでじろりと啓吾を再び見やった。 「エイジが床に臥せている間、あいつは何も口にしない。餌も食わなきゃ水も飲まん。お前の姿を見れば、多少は変わるだろう」 クリッジはそう言うと、大きなカップに入った茶をぐびりと飲んだ。 「え? 銀は、銀は大丈夫なの? 弱っちゃってるの?」 この世界に来て以来、一緒にいる銀のことが気掛かりでならない啓吾は、クリッジのその言葉を聞いて、クリッジに呼び掛けられた時以上に心臓が飛び上がる感じを覚えた。 「グリフィスはそう『やわ』な鳥ではない。だが……」 クリッジの視線が啓吾の頭の頂点から爪先までへと、何度も上下往復させて呟いた。 「あの年齢のグリフィスなら、まだああも頑固でない筈だが……どうやらお前が行ったほうが話が早いかもしれん」 クリッジは、啓吾の罹った熱病に冒されないように、銀を啓吾から引き離した時の、銀の猛烈な暴れ様を話して聞かせた。よく見ると、その時に負った傷なのかは分からないが、クリッジの腕や手の甲には真新しい包帯が巻かれている。 「とんだきかん坊だ、あいつは」 「きかん坊?」 「ケイゴはあのグリフィスが雄だということを知らなかったのか? よくもそれでいて、あれだけグリフィスを懐かせることが出来たものだ」 クリッジは些か呆れたような表情を見せた。 そう言えば男の子だっておばちゃん言ってたっけ、と啓吾はアイーダの言葉を思い出した。 「それだけ、あの銀が惹かれる何かがエイジにあったってことなのでしょうね」 ダフニは鍋をテーブルに置くと、再び台所へ歩いて行きながら、笑って言った。 その時、玄関からレンとフスハの兄弟が慌ただしく入って来た。 「ああ、お腹空いたぁ!」 レンが大声を出した。 「ケイゴじゃないか! 元気になったんだな?」 兄のフスハが啓吾の姿を見ると、軽く何度か頷きながらにっこりと笑った。 「お前達、騒がないの。食事の前よ。手を洗っておいで」 「はあい」 二人は間延びした返事をすると、めいめいで啓吾の肩をぽんと叩いて台所へ入って行った。 「もうびりびりこないね、兄さん」 「ああ。あれ、何だったんだろうな」 二人の会話が聞こえてくる。 気付くと、クリッジがじっと啓吾の胸に視線を向けたままだった。 「あの……」 呟いた啓吾にクリッジは一言、「成る程」と言っただけで、テーブルの上に置いてあった新聞を広げた。 クリッジには見えていた。啓吾の胸から木漏れ日のように静かに、白い光が放たれている様を。
「ケイゴは何歳になるの?」 ダフニが訊いた。 「七歳」 「そうなの?」 啓吾の年齢を聞いて、レンがパンを頬張りながら言った。 「じゃあ、もうすぐ『トランスソールム』なんだ」 「とらんす……何?」 啓吾の聞き慣れない言葉がまた出て来た。トランスソールムとは「独り(ソールム)を超えて(トランス)」と和訳されるであろう言葉で、八歳を迎えた子供が一人で遠くの地に旅に出る「修行」の行事とされているものだ。これはレンやフスハの住む村、そして周辺の地域にある村や町では恒例のものとなっている。分かりやすく言えば、子供にとっての初めてのおつかいみたいなものだろうか。だが、修行呼ばわりされるからには生半可な距離を行くのではない。最低でも二千ミル(二千キロ)の距離を行くという、かなりの長距離の旅である。そして、その旅の果てに何かしら一つの「役目」を果たすという内容になっていた。 八歳になれば全ての子供が必ず行かなければならないと言うものでもないが、八歳から十二歳の間で出立するというもので、レンは八歳になったばかり、兄のフスハは十二歳になってから三ヶ月ほど経っていた。フスハの場合は、一昨年にアグゲリス公国の首都アグゲリアードから戻ってきたという経験があった。当時のアグゲリスでは、現在のような中途転生者への強行政策が行われるほぼ一年前の時期であり、レグヌム・プリンキピスとの関係も悪化してはいなかった。 そして、このトランスソールムの旅から帰ってきて初めて、子供は成人への入り口に立つという解釈をされているのであった。 ダフニは笑顔を浮かべながら、啓吾にそのような説明をした。啓吾は「うん、うん」と相槌を打ちながら聞いていた。 「ケイゴのいた所では、トランスソールムみたいなことはやっていないの? ケイゴって外国の子供なんでしょ?」 レンが続けて訊いた。 「うん……ないよ」 「じゃあ、何時までも子供扱いじゃん。大人の仲間入りに何かやることってないの?」 「二十歳になったら成人式って言うのがあるよ」 「セイジンシキ?」 「うん。大人になったってことをお祝いする式なんだって。パパが教えてくれた」 「式かぁ。簡単なんだな」 そう言われても、返す言葉が見つからない啓吾は、目の前の皿に入れられているシチューを口に運んだ。 レンに続けてフスハが、グリルした塩漬けの肉を飲み込んでから口を開いた。 「俺の時は隣の国へ行ったんだ。アグゲリスにいる父さんの友達で、グリフィス・マスターをしている人のところで一週間、手伝いをしてきた。その人、グリフィスの調教法の本も書いていて、それを貰って帰ってきたよ」 「外国に行ったの? すごいなぁ」 啓吾が目を丸くして言った。子供が一人で外国へ行って、一人で帰ってくるなんて、啓吾にとっては夢のまた夢な話であった。 「ケイゴはどんな所から来たのさ?」 レンが訊いた。 「あ……」 「だって、ケイゴはここら辺じゃ見ない顔してるじゃん。髪も目も真っ黒だし。あ、目は茶色いのか?」 啓吾の顔をしげしげと覗きこみながら、レンは質問を続けた。 「どんな国から来たのさ? 何でここに来たの?」 啓吾は言葉を詰まらせた。 「髪の色や瞳の色が違っていても、お前達と同じ人の子だ。そして、余計なことは詮索するんじゃない」 クリッジが口を挟んだ。 「さあさあ、お前達。昼から学校でしょ? もう準備しないと遅れますよ。早くなさい」 次いでダフニが二人を急かせた。 「ケイゴ。食い終わったんなら、行くぞ」 クリッジは席を立ちながら、俯いている啓吾に声を掛けた。
クリッジは、啓吾が泣きながら二人に話したことを子供達から、断片的な情報として聞いてはいた。だがそのことを啓吾に問いただそうとはしなかった。クリッジは啓吾を連れて、グリフィスの小屋へ向かうところだった。 柔らかい日差しが二人の頭上から降り注いでいる。 「……おじさん」 啓吾はクリッジに声を掛けた。しかし何の返答もない。 「おじさんは訊かないの? 僕のこと……」 舗装されていない土の道を歩きながら、啓吾はクリッジに訊いた。だが答えはシンプルなものであった。 「訊かれたいのか?」 そう言われ、啓吾は首を横へ振った。 「ふん」 啓吾の顔を一瞥したクリッジは視線を前に戻し、ぶっきらぼうな言い方で答えた。 「だが」 クリッジは尚も歩きながら、こう言った。 「潰されちゃならん」 「え?」 啓吾が訊き返した。 「お前がウチに来る前にどんな目に遭ったか、私は知らん。だが、それがどれだけ辛く、悲しく、耐え難いことでも、それに潰されちゃならん。這ってでも前に進むしかない。それが人生だ」 啓吾はきょとんとした表情でクリッジの後姿を見た。何か叱られるのではないかと思ったが、少なくとも責められているのではない、という感覚は持つことが出来ていた。 「今という時は待っていちゃくれん」 その一言を付け加えると、歩いていた道を外れて茂みの中へ入っていった。木々の合間に幅広の獣道のような脇道を歩くと、クリッジは前を指差した。 「あそこだ。お前の銀もそこにいる」 「本当?」 そう言うと、啓吾は走って小屋のほうへ向かっていった。気が急いていた。銀は元気なのだろうか。何も飲まず食わずでいる? まさかあの大男に苛められた? 啓吾の胸は先程以上にどきどきしていた。 駄々広い小屋の、金網で出来た壁越しに中を覗き見る。多くのグリフィス達がめいめいで動き回っている。地に止まり羽を休めているであろうものもあれば、小屋の中に立っている背の低めな木の枝から枝へと飛び移るもの、地に足をつけ、すっくと立ち首を伸ばして、啓吾や後から来るクリッジの顔をじろじろ見るものもいる。 「ぎぃん!」 啓吾は大声で銀の名を呼んだ。 小屋の奥隅から一声高い嘶きが聞こえた。声のしたほうを見ると、白銀色の羽毛に包まれたグリフィスが羽ばたきながら、啓吾のほうへ飛んできた。 間違いない。銀だ。 だが、最後に見た時と比べて、一回りほど体が大きくなったように思える。 「グリフィスは餌や水分だけで成長する鳥ではない」 クリッジが言った。 「自身が我が主とする、我がマスターと認める者との絆。マスターに寄せる自身の信頼と、マスターが寄せるグリフィスへの愛情。それらが堅固であればあるほど、その思いや絆を糧として、自身の血肉にする」 啓吾からすれば、「好き」という気持ちが大きければ大きいほど、その思いを栄養にして育つ鳥だという風に解釈するまでに留まっている。七歳の子供に絆や信頼の強さ云々という話は、あまりぴんと来ないものなのかもしれない。ただ、啓吾の中ではその「相手を好きでいる」という気持ちは、人に対してだけでのものではなく、動物に対しても、植物に対しても通じる万能の気持ちであり、その力は相当大きく強いものなのだと感じ取ることが出来ていた。 自分は銀が好きなのだろうか。啓吾はふと思った。先ず嫌いではない。好きだとか嫌いだとか言う以前に、見たこともない光景の広がる世界にたった一人で放り出された啓吾にとって、最初に出会ったのがシャリーズだった。啓吾を救ったというグリフィス。そしてその子供である銀。銀は最初から啓吾に懐いてきた。そしてアイーダ。ほんの短い間ではあったが、アイーダやシャリーズ、銀とは家族のような時を一緒に過ごした。拠り所のなかった啓吾の心にとって、そのような彼等の存在は、明らかに啓吾の心を救ってくれた。 啓吾にとって、今や銀はなくてはならない存在であったのだ。そして友であったのだ。 「不思議な鳥だ。そして神秘的でもある」 クリッジの一言に啓吾は黙って頷いた。 以前は胸の前に抱き上げることの出来る、柴犬ほどの大きさだった銀が、今では大型犬程度の大きさになっている。 銀は嬉しげに甘えるような鳴き声を上げていた。頭の上にある情覚器の触覚を元気に動かしている。 「だが、それだけじゃあまずい。生き物として体力を維持するだけの栄養分はとらなきゃならん」 クリッジに促され、啓吾は小屋の中へ入った。啓吾の先にクリッジが歩く。 すると、他のグリフィス達の様子が一変した。皆が啓吾をじっと見つめているのだ。めいめいで動き回っていたその体動を止め、鳴き声も上げず、ただ視線を啓吾に注いでいるのだ。 啓吾は何が起こったのか分からずに、体を緊張で強張らせていた。 「怖がらんでもいい」 クリッジが言った。いつの間にか手に果物の入った小さなバケツを持っている。 「グリフィスには見えているのだ。お前の放つ光が」 光? 何のことだろうか。 「お前自身には見えないだろうが、グリフィスや……私には見える」 「光って何の光ですか?」 啓吾は訊いた。そして視線を自分の胸に向け、手で胸を撫でた。 「誰かを信じる光。想いを寄せる力の光。それは人間として生きる者にとって……いや、この世に生きる全ての者にとって欠かせない力の証だ。だが、それが外に漏れることは殆どない」 「え?」 「ケイゴ、お前……お前が何処から来たのかは訊かん。だが少なくとも、私と……私達とお前とは何処かしらが違う」 「違う……」 この言葉に何かしら突き放されたような感覚を覚えた。寂しげな表情を浮かべた啓吾の頭に大きな手を載せ、クリッジは続けた。 「だが心は一緒だ。誰かを想い、慕い、信じ、愛する。その心は全く一緒だ。お前も私も人の子だからな」 クリッジは最初にその顔を見た時もそうだったが、決して笑顔を見せない。見せないと言うよりも、元々があまり笑わないのだろうか。むすりとした表情は変わらない。 それでも声は柔らかく、胸に響いてくる。 「その心の力が強い者にグリフィスはなびくのだ。大事にしろ」 そう言って、一度ほど啓吾の頭を撫でると手を放し、続いてもう片方の手に持っていたバケツから果実を一つ掴み、啓吾に手渡した。 「これを銀にやるんだ」 啓吾はその梨に似た果実を受け取ると、銀の前に差し出した。 銀は果実をちろちろと興味深げに見つめると、そっとその果実を嘴の先で摘み、頭を上に向けると一息に飲み込んだ。啓吾はクリッジから続けて同じ果実を貰い、同様にして銀の前に出した。そして銀はテンポよく果実を啓吾の手からくわえ、嘴の先で軽く二、三度ほどかりかりと砕くと飲み込んでいく。 「全く……現金な坊主だ」 そんな銀を見つつ、クリッジは溜め息混じりに呟いた。そして自分の傍らで銀に果実を与える啓吾の顔をちらりと見た。 啓吾に笑みが戻っていた。
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