とにかくその不思議な箱は只物では無かった。見るものの心を魅了し、そして壊していく。中を見るということは、それからは一生逃げることのできないのと同じである。 私は十八の男性、いたって普通の高校男児である。学校の帰り道、奇妙な箱を見つけ、普通ならチラ見して無視するようなものであるが、気づくと私はその箱を家に持ち帰っていたのである。実際この時からすでに私は、この箱になにかやられていたのかもしれん。 とにかく私は玄関に入り、来ていた制服をイスに乱暴にかけた後、冷蔵庫からお菓子とオレンジジュースを取り出している間、しきりに今日の学校での出来事を思い返していた。 その日はいつもと変わらず朝から寒かった。カレンダーは2月、高校生活もほとんど終わりに近づき、クラスの女子は相変わらず面白くも無いトークで盛りあがっていた。自分はというと、特に中のいい友達がおるわけでもなく、いわゆるボッチであり、ずっと席については、しきりにダルそうにするのであった。 こんな性格なので、案の定私には高校生活での思い出がほとんど無い。今日だって、特に何かあったわけでもない。制服を片し、お菓子やらジュースを取り出す間の私の考えは、もはや無意味同然であったのである。 ようやくテレビを見るための準備を一通り終えた私は、リビングに行きテレビ近くのソファーに座り、特に何か見る予定も無いテレビをつけ、運んできたジュースとお菓子を、ろくに味わいもせずせっせと口に入れているころ、ようやく私はテーブルに置きっぱなしにしていた箱の存在を思い出した。この時、帰ってきてから実に三十分は経っていた。 私はテーブルに置きっぱなしにしていた箱を取りに行き、またリビングに戻った。ソファーに座り、その箱をじっくり観察する。その箱は木製であり、意外としっかりした造りになっていた。私はふと、これは誰かの落し物で、その人は今まさにこれを探しにあの辺をうろうろしているのではないかと不安になった。しかし、持ってきたものはしょうがないのである。私はそう言い聞かせ、その箱をゆっくりと開けてみた。 今考えれば、なぜ箱を拾ってから下校途中の間、それを開けなかったのか、ましてや、なぜそんな箱をわざわざ拾って家に持ち帰ったのか、思い返せば、いろいろと疑問は出てくる。しかし、少年は、確かにその箱を開けてしまったのである。見知らぬ箱をわざわざ拾い、それを家の中で初めて開ける。この行為は、極めて単純で、やるには以外に難しく、とてもおもしろそうな光景である。人というのは、単純の中に偶然があり、そしてそれが時に未来を変えてしまうのである。なんとも、おもしろいものである。
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