俺にも女はいた 高校生のときだ 彼女は…さおりは 十八の時 もうすぐ卒業の時に 風呂場で死んでいた 原因は不明
月日が十年たち 俺も立派なサラリーマン入りを 果たしていた 皆今年の新入社員で話がもちきりだったが 俺はそんな話も面倒だった できれば優秀であればいい それだけだった
新入社員が入って来た 男子六名女子三名 いつもと変わらない ふり落ちて半分は消えるだろう 特に男子は厳しい
そんな中一人の女の子が目に入るようになった もっぱら美人と噂の彼女ではなく 仕事熱心で事務のほとんどを すでに把握しつつある彼女だ かほりという かほりは優秀だったが 女子はお茶汲みだけしてればいいと思ってた とか平気で思ったことを口にする子だった それでいて男子の仕事の手伝いまでこなす なかなか優秀な事務にはもったいない子だった まぁ中小企業なので事務ばかりとはいかないが
美人という彼女は本当に美しかったが 新入社員の歓迎会を前にして 一緒に入ってきた男子二人とやめていった 辞めさせられたと言ってもいい いきなり三角関係のもつれで 昼間からどしゃ喧嘩を始めたのだ 彼女…女はそしらぬ顔をしていたが 証言の元当然のように引きずり込まれた
一月ならぬ半月ほどで起きた不始末に 上司は頭抱えていたが 起きた事実には逆らえない そもそもそれぐらいは落ちてもあたりまえの範囲だ
新入社員の歓迎会があった かほりは先の自己紹介で酒は飲めないし飲まないと あらかじめその旨をおりこんだ自己紹介をした ブーイングの嵐だったが頭は悪くない 最初から宣言してしまえば何かあれば責任問題だ
かほりがお酌をしにきた 本当はこんなこともしないタイプなんですよー と隣の同僚に言っている いや、お酌は大事な仕事だと酔っ払った同僚は 説教を始めそうだったので 早くこっちにも酒をついでくれと助けた 今度は俺に絡みそうだがにらみつけると ふらふらとどこかへ行ってしまった 耳元でお気遣い感謝しますとかほりがいった いい声だった普段のてきぱきした忙しい中では 聞けない自然体の声だった その声に少しどきまきした さっさと次行けというと 隣がそいつは堅物だからと笑った 現実にそうなので訂正もいれなかったが 堅物なんですか?じゃあもう一度来ますね ちょっとだけつきあってくださいとかほりはいった
宴会もひとしおもう終る頃にかほりは来た 堅物さんには付き合ってもらいますよ と言ってどんどんひっぱっていく 私の家この近所でね だから宝箱いくつか持っているのです ひとつお見せしますね そう行って坂道をどんどんのぼっていくと 振り返ってくださいと突然言われた
ほーっ思わず声が出た 桜屋敷とは聞いていたが 真上から見下ろした事はなかった 桜だけが一面に埋め尽くされた風景 ね?宝箱でしょう?と言われる 確かに宝だなと答えた
それから5年その頃の新入社員は 男子1名かほり1名になった その頃になるとかほりの変り種は 本領発揮して皆からかわりもんと呼ばれていた そしてなんとなく誘われながら遊びにいくようになり 変り種を選んだ俺も変り種扱いされた 悪い気分じゃなかった 堅物でいたかったわけじゃない ずーっとひきずってるものがあった それがすーっと溶けていっただけだ
二人だけで残業してて なんとなく昔の彼女の話をし 泣くに泣いた それをただだまって抱きしめていてくれただけだ それから氷が溶けた 堅物なのには代わりがないが それでも前とはかなり違って見えるらしい さおりの墓参りに一緒に行くようになった そこからは坂道をくだるように二人の関係は 深まった と言っても仕事場では知らないもののが多い かほりが妊娠するまで知らなかったものも多い 寿退社をするかと思いきや産休をとると言い 俺にも取れという 生まれるギリギリまで働いて1年の産休をとり 残り1年を俺がとらされた
いえることは子育てよりは仕事の方が 何倍も楽だということだ産休が終った時 ほっとしたその後はかほりの母が主に面倒を みてくれていた。 二人とも職場復帰だ 夫婦になっても仕事場でやることは変わりない 男子顔負けで働くかほりには頭が下がる 優秀ならいいと思ってた 優秀すぎるのは困り者だと今は思っている
愛する妻へ 仕事も子育てもほどほどにしろよ ぶっ倒れるぞ
幸せな日々が続きますように おわり
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