四 大雨
雨が降り始めた。空信たちはあわてて再び山を登り始めた。 すると直ぐに熊野神社が目の前に現れた。 彼らが神社にたどり着くと同時に雷が鳴った。 小さな神社で人がいない。一部屋しかない。 それを幸いに彼らは神社の中に入った。 ふと、空信が前庭を眺める。 人がお参りする部分は土で踏み固められていた。 そして、そこには幾つもの線が断続的に描かれていた。 石垣の断面図を急いで消した後であった。 それを空信は見つめた。子供が描いた遊びの線とは思えない。 線の一つ一つに意味があったように思えたからだ。 空信は、すれ違ったばかりの高麗人を思い出した。 当時の朝鮮の土木は、日本の土木技術の先生であった。蒙古襲来は朝鮮半島全土におよび、日本に亡命した高麗人はかなりいた。その中には優れた土木技術者たちがいた。 さて、雨粒が大きくなってきた。そして、激しく増えて音を立てて落ちてきた。 断続的に描かれた線が、激しく叩きつける弾丸のような雨粒で消されて行く。 線がみな消えていった。
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