三 高麗人
さて、雨が今にも降りそうなのに、空信たちは今津湾を眺めた。 そのとき、彼らが立っている道に三人の男たちが下ってきた。 何かに苛立ち急いでいるようだった。 空には雲が集まっていた。 しかし、その巨大化した雲が辺りを暗くし始めているのに彼らは気がついていないように見えた。 男たちは彼らとすれ違うとき、歩みを遅くした。 道が狭かったからだ。 空信たちの眼に映ったのは、役人のように思える二人の武士と一人の高麗人であった。彼らは三十前後の高麗人に注目した。 彼の髭ではない。背が高いことでもない。 品があり、並はずれた鋭い知性を感じさせる彼の目であった。 その彼の目と若い望みとの目が合った。 彼の足が一瞬止まった。男を知らぬ彼女の美しい瞳を彼は見つめた。 二人には時間が止まっているように感じられた一瞬であった。 望みの父である空信は気がつかなかった。母である愛は気がついていた。 男たちは山を下りて、今津湾沿いにある道を伝って博多方面に行く。そのとき、雨が降り始めた。しかし、彼らは雨宿りしようとはしない。 その一人である高麗人は、周辺を見ながら独り言を繰り返していた。 「博多で聞いていたりも現地は長い。設計も見積もりを変えなくてはいけない」と。
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