俺は、適当にターゲットを選んで、ケータイのボタンを押した。今日は、 このジジイから、たっぷりふんだくってやるとするか…。
ぷるるるるるっ、ぷるるるるるっ、ぷるるるるるっ、ぷるる…。ガチャっ。 「はい、もしもし」 こいつは、幸先が良い。声の感じからして、いかにもカモといった感じだ。 「あー、オレオレ」 「おおっ、ヒロシか?」 「そうそう、ヒロシだよ」 「声の感じが違うな。エボラ出血熱にでもかかったか?」 「…い、いや、ただの風邪だよ。ただ、ちょっと喉に来ちゃってね」 「そうかぁ、気を付けろよ。しかし、『バカだから風邪を引かない』と、 それだけが自慢だったのにな。このバカ」 「…あ、うん」 「しかし、ケータイの番号が違うな。変えたのか?」 「ああ、そうそう。ケータイ、水没させちゃってさ」 「…あれ?そういえば、関西弁使うの止めたのか?」 「…いや、そんな事ないがな。気のせいや、気のせい」 「…語尾に、『げにょ』って付けるのも、止めてしまったのか?」 「…そんな事あらへんがなげにょ。いつも通りでんがなげにょ」 「…時々、意味もなく『ぷっぷ、ぷ〜ぅっ』て言う癖もないし」 「…あるあるっ、どうしてもその癖だけは抜けんで困っとんのやげにょ。 …ぷっぷ、ぷ〜ぅっ」 「…やたらと英単語を混ぜる事もしないし…」 「…それでやなぁ。ワイのミスで、コーポレーションが、ノット・クロス・ オーバーを出しそうでんねんげにょ。…ぷっぷ、ぷ〜ぅっ」 「ノット・クロス・オーバーって、なんだ?」 「ザッツ、不渡りでんがなげにょ。マイ・ダディげにょ。…ぷっぷ、ぷ〜ぅっ」 「…突然、間に小咄を挿まないのは、どうしてだ?」 「『くそう、化け物めっ。これでもくらえ、細菌兵器だ』 『はっはっはっ、そんなものは私には効かん』 『なぜだ?なぜなんだ?』 『最近、平気になりました』…ぷっぷ、ぷ〜ぅっ」 「はっはっはっ、お前は相変わらずだなぁ」 「そ、そうでっしゃろげにょ。マイ・ダディげにょ。…ぷっぷ、ぷ〜ぅっ」 「こうして、お前と話すのも、何年ぶりかなぁ?3年?5年?…10年?」 「そ、それでやなげにょ。マイ・ダディげにょ。急にマニーが必要に…」 「………っ!思い出したーっ!」 「ホワッツを思い出したげにょ。…ぷっぷ、ぷ〜ぅっ」 「わしには、息子はおらん」 ガチャンっ。つーっ、つーっ、つーっ、つーっ、つーっ、つーっ、つーっ。
「…真面目に、働こうかなぁ?」
(おしまい)
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