二人は競馬場から出て、バスに乗った。家に帰るまでの道すがら、オッチャンは素性を簡単に話した。
オッチャンの名前は、北野昭三。難波に住んでおり、バツイチ。今は、同棲している女性がいる。オッチャンの歳は五十九、相手は三十二歳でミナミのラウンジでホステスをしているらしい。付き合い始めてからもう五年になるということだった。『後のことは、その内にわかるやろ』と言ってそれからは、黙って歩いた。
二人が猛のアパートに着いて部屋の鍵を開けるとオッチャンは先に入って靴を脱いだ。
「ものがないのは別にして、あんた意外に部屋、綺麗にしとるな男の一人暮らしにしては―。彼女でもおるんか」
そう言いながら、玄関横の冷蔵庫を開けてビールを取り出した。
「金ないのにビールはあるんやな。けど一本しかないところを見ると勝った時に祝杯上げるつもりやったんか」
そのビールは、オッチャンの言う通り、そのつもりで置いておいたものであった。 猛は、照れ笑いでオッチャンに答えていた。
「まぁ、えぇやろ。ここ来る前にコンビニでも寄ったらよかったな。もうちょっとなんかある思うたけど、冷蔵庫に何にも入ってないしな。近くにあるか。そうか、ほなこれでビールと弁当なんでもえぇから買うて来てくれへんか。ワシ、ちょっと横になってるさかい。心配せんでもえぇ。なんも盗らへんわ。それに盗るもんもあらへんやないか。はっはっは。早う行ってきて。あんた、ワシの弟子になる言うてたやんか。師匠を信用せんで、何が弟子か。早う行ってきて」
そう言うとオッチャンは、横になった。
猛は、お金を受け取るとオッチャンに言われるままに部屋を後にした。
コンビニから戻るとオッチャンは、寝てしまっていた。 オッチャンは苦しそうに、『う〜ん、うん……』と寝返りを打ちながら何度もうめき声を上げていた。猛が、部屋に入っても起きる様子はなかった。そして、一際大きな声で『あぁ〜』と叫ぶと。目を見開いた。
「あぁ、ここは?」
「僕の部屋です。弁当買って来ました。それにビールとおつまみ」
「あぁ、せやった、せやった。ニイチャンの部屋に来とったんやったな。ワシ、寝言いうてへんかったか」
「いぇ。でも、うなされてましたよ」
「そうか、それはいつものことや。それより、ビールや喉乾いた。あんたもやりや遠慮せんと」
ビールを飲みながらオッチャンは、馬券師としての心得を話始めた。
「えぇか、あんたが勝てへんのはなんでかわかるか―」
それからオッチャンと明け方まで話し込むことになった。
|
|