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作品名:おとことおんな 作者:宮本野熊

第4回   信じる?
信じる?ということ

「ねぇ、こうしているところ写真に撮ってよ」
女は、甘えるような目をしながら男に携帯を渡した。

「撮ってもいいの―」
男は、幾分高まる気持ちを抑えきれずにいた。こうしているところを写真に撮ることは、彼にとって、初めての経験でもあった。

「綺麗にとってね。でも顔はやめて……」
女の言葉が終わらないうちに男は女の後ろから激しく腰を動かした。「ぁっ」とうめき、シーツを掴む女の手には、いつもより力がこもっていた。

「ねぇ、私のこと好き?」
「好きに決まってるよ」
「……本に書いてあったけど、男の人って大体そう言うらしいのよねエッチの後って。なんでだろう」
「なんでって、好きだから好きって言うだけじゃないの」
「でも、好きでもない人ともこういうことできるんでしょ」
「そう言う人もいるだろうけど、俺はできないな……」
「本当?信じていいの」
 
『信』という文字は、人を表わすイと言葉を表わす言からなる。人(ジン)は申と通じ重ねるという意味を含むことから、信は、言葉が心に重なり合うことをいう。(『常用字解』平凡社)

 人は、信を求めて人と接する。しかし、いくら言葉が心に重なり合っていたとしても、現実や行動がそれに伴うとは限らない。そこで、好きと言う言葉に嘘はなく、心も確かに相手のことを好きの対象として認めているにも関わらず、それ以上の証しを求めようとするのが男女と言うものなのかもしれない。
 この二人は、信じあう証しとしてあの時の写真を残した。


 
 後日、四人集まった女子会、居酒屋での話。

「私ね、あの時の写真撮っちゃった。彼ったら緊張してたけど、後で見てみたら結構良く撮れてて……」

「すご〜い。恥ずかしくなかったの」

「恥ずかしかったけど、いつもより興奮した……。試してみたら……」

「嫌だ。私は絶対に。なんだかAVみたいじゃない。それにそんな写真どっかのサイトに流れたらどうするの」

「大丈夫よ。私の携帯でしか撮ってないし、顔は写してないから」

「携帯?それじゃ、その写真、今、持ってるの」

「あるよ」
 

 友人達のしつこく迫る「見せて」と言う言葉に、女は折れるように携帯を取り出した。そして、恥ずかしそうに、ピクチャーフォルダを開くと躊躇いながらも、携帯を一人の友人に渡した。顔こそ写されてはいないものの、あられもない女の姿がそこには、写っていた。

「これ本当にあなたなの?」
と三人の友人は女を前に携帯を覗き込み、はしゃぎながらも興味津々で画面を見つめていた。

 古い歌謡曲の歌詞のように後ろから前から顔を避けるようにして写された写真がスライドしていった。

「何、これっ!」
と叫びながら友人は、思わず手にした携帯をテーブルに落とした。

 女は、顔を赤らめながら携帯を手に取ると、『お互いを信じていなければできない』ことをしたのだと恥ずかしさを紛らわすように言い訳を繕い写真を撮ることを友人にも勧めていた。

 携帯を思わず落としてしまった友人が目にしたのは、男女の接合した局部のアップであった。

 しかし、彼女が本当に驚いたのは、それが原因ではなかった。

 ちらと見えた男性の根本近くにハートの形をした黒く目立つほくろに見覚えがあったのだ。写真に顔は写っていた訳ではなかったが、間違いないと彼女は確信した。男の度重なる浮気が原因で二年前に別れ、その後既に結婚をしたと聞いた昔の男を思い出した。彼女は、あの男の浮気癖がまだ直ってはいなかったことに腹立たしさを覚えた。

「彼ね、この写真見ながら。本当に好きだよって言ってね。激しくなるのよ。信じていい?って聞いたら、当たり前だろうって」
と言う女ののろけた口調を聞いて、彼女は叫んだ。

「あの男は信じちゃいけない!」

「あの男?」
と彼女の言葉に女と二人の友人は顔を見合わせた。

「あの男って、まだ、紹介してないじゃん?」

 携帯を握りながら女は怪訝につぶやいた。

「あの……、じゃなくて。その…、そういうことをする男って……」

 しどろもどろに言葉を並べようとする彼女にこの後、友人たちによる追及が及んだことは疑うべくもない。


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