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作品名:Some kind of Love 作者:宮本野熊

第8回   8
 第二部の舞台は舞台というよりも感性に語りかけるものであった。照明は落とされたまま、灯される事無く暗闇の中ですべてが進行していった。舞台上に人の居る気配は感じることができる。消された照明はそのまま、場内のすべての明りが消され完全な闇の中でストーリーが進んでいった。
 
編里:磨里ようやくたどり着いたね。お疲れ様。しばらく休むといいよ。
錘帝は先に行ってるよ。瞑有は、聞こえるだろ、さっきから歌を歌っている。次は声楽家になるんだって言ってる。僕は君よりさきにここにきたけど、いつも、一緒にいたんだ、君には感じていただろう。本当に一つになれるっていうのはここのことなんだ、というより、僕達はここから旅立っていったんだ。
瞑有の歌声が細くそして、次第に力強く場ないに響いてゆく(アベマリア)

磨里:私は、どこにいるの?さっき子供たちとお別れをしたところなのに。でも編里あな
たのことを感じる。なにかあなたが私の中にいるような、また、私があなたの中に居るよ
うな不思議な心地ね。
編里:そう、ここでは、僕は君の中にあって、君は僕の中にあるんだ。それは、瞑有も同じ。瞑有のこの歌声はきみの歌声でもあり、僕の歌声でもある。これまでの世界では理解しようともできなかったことがここにはアル。君はまだ、知覚の世界からは離れていないだろうからこう伝えたほうがわかりやすいだろう。もともと僕ら四人は、一つだった。それがここにあって、初めて気づかされた。君は僕であり、僕は君だということを。
僕たちは前の世界ではとても幸運だったんだよ、出会う事ができたんだから。中には、ソウルのバランスが悪くて同じ時を過ごすことが出来なかったアルもいるのだから。少しずつ、また、アルということに順応してくるから、今は、そのままに感覚をまかせてみて。
磨里:とてもあたたかいところねここは。あなたを本当に感じる事ができる。ようやく。
瞑有:ここは形のない世界。本当のアルということを感じる世界。わたしもそろそろいくわ。あなたたちも準備ができたら早くね。また、同じにすごせるようにネ。
編里:わかったよ。僕らのソウルはもうこれ以上分離されないから、また、あそこでも感じあえるから、きっと、引き合うから、もし、錘帝に出会って、記憶が甦ったらよろしくね。僕たちもすぐに行くからね。
瞑有:SEE You In Another Life.(一筋の光が淡く光る)

 観客に編里が語りかける

編里:皆様、きょう皆様がここに来た事は決して偶然ではありません。ソウルが引き合った結果なのです。この暗闇の場内の中、皆様にはご自身の手も足も目に見えることはないでしょう、でも、間違いなく生きている、存在しているそれだけは確かなのです。私達は、五感に頼って存在していることを認知しています。自身の身体を触ることなく、ここに座っているとしたら皆さん自身は、その存在をどのように証明する事が出来るでしょうか?声に頼る事も許されず、自身の体温さえも感じることなく、フェロモンさえも嗅ぐことなく。それでもやはり皆さんは存在している。本当に心からそう思えることが、アルという意味なのです。(やさしい音楽が流れ出す、心地よいパフュームの香りとともに。)

編里が磨里に語りかける、観客達は、それを自身へのメッセージとして感じている。

編里:きみの横にある手をとってみてごらん。それは、君自身の手でもあり、ソウルの手
でもあるのだから。そして、力いっぱいその手を握ってごらん、それが、アルという事を感じることになるのだから。

 その声に導かれるように私を含め劇場にいるすべての観客が隣の手をとり、力強く握った。

編里:目に見えてはいない。しかし、そこには確かに存在するなにかがある。そう、そ
れがアルということなんだよ。自分が、そして人が。
我々は、時をこえアルものとして存在(アル)のです。悲しみも、歓びも、怒りも、安静もアルからこそ感じるのです。すべては、アルことから始まりアルことへと導かれてゆく。時として、アルことを忘れない為に、肉体の死を通してアル事を認める。もう一つ、アルということは一つの個体ではないのです。ソウルは、分離する、しかし、もともと一つであったソウルは、肉体に分散されたとしても感じあうことができるのです。あなたが悲しみを感じたとき、僕にそれが伝わったように、たとえどれだけ遠くに離れていなければならない運命であったとしても、同じようにソウルにはその悲しみは伝わってくる。あなたが幸せな気持ちでいられるとき、同じようにその幸せを感じていられる。それが、ソウルの繋がりというものなんだ。すべての人がそれを理解できたとき初めて、ソウルと肉体が本当に融合し、我々は次のアルのステージに進むことができるんだ。それが、我々の本当の運命というものなんだ。世の中には正義も悪も本当は存在しない。すべては一つから始まったのだから。何百年の時を経て、ソウルは分離したアルを得んがために、欲望という知覚に流され、争いを繰り返してきた。濃いソウルが、惹かれあうたびにその争いは大きなものとなった。またその争いが、皮肉にもソウルを分離し、ここへきて真実に直面することになるんだ。そして、過ちに気づきまた戻ってゆく。その繰り返しが歴史を作ってきたんだ。幸い、僕と君、そして、錘帝と瞑有は同じ時を同じところで過ごすことが出来た。そして、ソウルを感じあう事が出来た。そして、あの生で誓った。また同じ時を過ごそうと話し合ったこと、それが僕らの運命。魂の存在それを伝える事が僕らの使命なんだ。暖かな気持ちを感じあえる世界を作るために。タイムキーパーとして、そして、メッセンジャーとして。僕ももう行かなくてはならない、でも、君がここに居る限り僕達のアルを感じる事はできるから、やさしく見守っていてね。

 そういうとまた淡い光が現れそして遠ざかっていった。

磨里:ありがとう、編里、錘帝、瞑有。私は、しばらくここでソウルの充電をしていくね。
でも、不思議あなたたちのアルことを感じるから寂しくもないわ。ソウルの使命って、偶然一緒にいられたから気づいたのね。本当はこれまでも、ここで誰かに見られていた。ソウルが強くなるようにその使命を忘れてしまわないように。だから、どんな困難にも耐えられてきたのね。人の世界で、強いソウルを忘れない為にあなたたちのことここに居る限り感じ続けるわ。あなたたちの悲しみは、わたしの悲しみ、あなた達の喜びは、わたしの歓びでもあるのだから。

 ふたたび瞑有のささやくような歌声が場内に秋の朝のさわやかな風のように吹いていった。

とても短い第二幕。しかし、観客の心には、何かが響いていた。さざ波がぶつかり合い、大きな波になるかのように、気持ちが静かに、しかし、高揚してゆくことを感じていた。それは私の心にも同じように。


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