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作品名:余命宣告 作者:じゅんしろう

第13回   13
それを終えた後、「さらに詳しく調べる為、次回、他の検査をしてみましょう」といわれた。単なるMRIではなく、全身の映像を撮り、且つ、状態を知ることができる、特別な検査という事だ。続けて、「白血球の数値はぎりぎりですが、どうしますか?」といった。
私は素人考えで癌細胞消滅を確実なものにする為、「やります」と答えた。
化学療法室に行き、癌が消えたことを小森さんに伝えると、「わあ、良かったですね、素晴らしいわ」と我がことのように喜んでくれた。
「白血球の数値はぎりぎりですが、ここで抗癌剤投与をして、さらに癌を消えさせたい」というと、「必ずしも投与をし続ければ好いというものではないですよ」という。
「?…」 「お分かりかと思いますが、良い細胞にも影響を及ばしますから」
「なるほど」 「ここは身体に負担を掛けない為にも、様子を見ることもできますわ」
小森さんは医師ではないから、独断的なことはいえない。だが、私は小森さんの経験を信じることにした。 「投与を止めます。ただ、薬剤の手配はしてしまったが」
「それは大丈夫。和賀さんが中止するとおっしゃったから、変更できますわよ」
「では、それでお願いします」 すぐに、小森さんは変更手続きをするために、室を出て行った。次回の検査結果でどの様になるか分からない。胃の癌が消えたとしても、他に転移しているかもしれないからだ。その不安はあるが、また、しばらく副作用の苦しみから解放されると思うと、やはり嬉しくなる。それも二回続けてなら、相当楽になるだろう。
帰り道、夏の日差しが私に向かって降り注いでいるが、副作用の影響で寒がりになっていた身にとって、丁度いい気候なのである。たとえ、それがつかの間のひと時であっても。
その夜、久しぶりにウィスキーをロックで飲んでみた。なんなく喉を通っていった。
これまでは酒もさほど美味く無く感じており、途中で止したりもした。しばらくの間、美味い酒を味わうことができる楽しみができた。酒のあてを作り、わりと遅くまで飲んだ。
次の日、銭湯に行った。昨今は各家に風呂が備えられて、銭湯を利用する人が少ない。私が通っている銭湯も人がまばらである。時間帯のせいもあるだろうが、ちょくちょく貸し切り状態になることがある。今日もそうだった。
「あずましいなあ」と、大きな湯船に浸かりながら、つい口にした。今の私は毎日が休日みたいなものであるが、久しぶりに本当の休日の様な気がした。だが、その思いは湯船から上がった時、現実に引き戻されてしまったのである。歳と共に腰痛に悩まされ出してきていたが、副作用の症状が消えたわけでもない。踏ん張る筋力も弱いままだ。風呂イスに座ろうとしたら、バランスを崩しタイルに転んでしまったのだ。さいわい大事に至らず起き上がることができ、人前で恥をさらすことは無かった。だが、打ちどころが悪かったならば如何であろうか。誰にも助けてもらうことなく倒れたままで、どのようになっていたか分からないのである。最悪、無様な姿をさらしたまま死んでいたかもしれない。同じ死ぬのでも綺麗に死にたいと願う見栄がある。多少のことで浮かれ、甘く見てはならない身体なのだ。心の底から、ぞっとした。
それでも日が経つにつれ、味覚障害がさらに軽減され食欲が出てきた。その代り運動不足もあり、体重が増えてきた。顔もふっくらしてきたのである。さらに、身体のむくみが酷くなった。特に両足がぱんぱんと腫れてきて、靴下の跡がくっきりと表れ食い込んでいる。また右胸の乳首の辺りに、しこりの様なものができてきた。人それぞれ、副作用は身体にどのように影響し表れでてくるか、分からないのだ。
お盆を迎えたが、霊園内にある墓は丘陵の上の方にあるので、墓参りはとうてい無理である。やむなく住まいの仏壇で供養をしたが、最後にまた親不孝をする事になるかも知れない。じくじたる思いにとらわれた。墓を妹弟が継ぎ、管理するとは思われない。いずれ朽ち果てていくであろう。私のことはともかく、両親に対して済まない、と頭を垂れた。


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