「ああ、その辺りなら米崎小学校の体育館かも知れませんね」 「ここからどの位かかりますか?」 「そうね、車で十五分くらいかしら。お知り合いがいらっしゃるの」 「はい」 「あの辺りは酷いようだから…」というと、気の毒そうに目を落とした。 修一は礼をいい、吉川たちの所へ戻ろうとしたときだった。すぐ近くに当の吉川が立っていた。一連のやり取りを見ていたようだ。 「その方はここに避難されていなかったのですね」 「はい。住まいから考えて、ここから車で十五分ほどの米崎小学校に避難しているのではないかということです」 「分かりました。気は急くでしょうが、炊き出しを終えてから行ってみましょう」 「ありがとうございます、よろしくお願いします」 その足で二人は校庭に行ったが、すでに支援物資の搬入は会社から来た数人と現地の担当者で執り行なわれている最中であった。修一は他の人たちと炊き出しの準備に取り掛かった。一刻も早く喜和子の消息を得に飛んで行きたかったが、炊き出しに没頭することで気を紛らしたといえる。 炊き出しは豚汁とおにぎりであったが、湯気が上がる出来立ての温かい食べ物は格別のようである。被災者の人々の人心地ついた安堵の表情が修一の目に焼き付いた。 それが終了すると吉川が修一に、後片付けは他の人に任せて車で現場に行くという。修一の事情は皆知っており、話はすでについているようだ。修一は黙って頭を下げた。 車は被害地へと向かっていった。その荒涼とした現場を目の辺りにした時、修一は息を呑んだ。 多くの家々は海に押し流され、その広い荒野のような泥沼の跡地だけが残っていた。あちらこちらに流木や木材が散乱しており、あるいは壊れた車があった。比較的大きな建物だけがぽつりぽつりと取り残されたように建っていたが、ほとんどが破損している痛ましい姿であった。津波はその建屋の高さまで達していたということだ。逃げ遅れた多くの人が泥の海に呑み込まれていったのだ。いままで修一は、喜和子が津波に巻き込まれたということを考えたことは無かった。漠然とではあるが、逃げおおせていると心の隅にあった。だが、この光景を目の当たりにして、はじめて強い危惧が芽生えた。自然の驚異を肌で感じたのである。強い焦燥感で胸がいっぱいになった。 吉川と修一は車を行けるところまで進めてみた。後は海岸沿いまで歩いて行った。海岸近くになるほど建物などはほぼ跡形もなく無くなっており、その先には二日前のことが嘘のように、穏やかな海が広がっていた。
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