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作品名:身延山にて 作者:じゅんしろう

第6回   6
運んできた物資は主に社員の家々からだという。また現地で炊き出しを行うための機材を、そのトラックの荷台の空きスペースに積み込んだ。修一はこの未曾有の大震災に際し、日本人の秩序ある行動がテレビで放映されていたが、日本中が固唾をのみ、かつ一致団結して困難を乗り越えていこうという気持ちを強く感じた。
バンの乗用車三台と二トントラック三台の計六台で現地に向かうということだ。大型トラックもあるが道路状況が分からぬので、小回りの利く自動車にしたということなどを、孝治は修一に説明してくれた。
「炊き出しは何処で行なうのですか?」
「社長は陸前高田市でやるといっていました」
「えっ、陸前高田市ですか」
「ええ、詳しい事情は分かりませんが、あそこも酷く遣られたようですからね」
修一は孝治の言葉により、吉川の強い好意と温情を感じ目頭が熱くなった。
孝治が別の準備の為社屋に入って行ったので、吉川のもとに駆け寄った。
 「陸前高田市で炊き出しを行うとのことですが」
 「ええ、私の知り合いも住んでいるものだから、安否が気がかりでね」
 坦々と答えてくれた吉川に、修一は黙って頭を下げた。
 その後、修一と孝治は吉川の家にバンの乗用車で向かった。玄関先には衣類や毛布などが山積みになっていた。詩子と孝治の嫁である妙子が用意したものだ。それらを車に積み込んだが、妙子ははきはきとした性格のようで、場の雰囲気が明るかった。吉川夫妻と孝治夫妻は対照的であったが、住まいは別々とのこともあるのか、詩子と妙子は仲が良さそうだった。
孝治夫妻はそのまま車に乗り込み、会社に向かっていった。また修一と詩子は遅い昼食を取った後、居間のテレビで震災の状況を見ながらお茶を飲んでいた。
テレビの画面には福島の原発の一号機建屋が映し出されていた。電源が切れているという危険な状態に陥っているということだ。そこへ吉川が帰ってきて座った時だった。
突然、建屋の上部が吹き飛んだのである。水素爆発といわれるものだった。翌日三号機、翌々日には四号機が次々と爆発していく。放射能漏れが起こったのである。それは福島県に甚大な被害を及ぼした。
修一はチェルノブイル原発事故の二の舞か、と思った。だが、テレビでは原子力の専門家といわれる科学者たちが、あれは水素爆発で放射能漏れではないというようなことをいっていた。


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