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作品名:路地裏の猫と私 最終章 作者:じゅんしろう

第7回   7
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二日目の出勤前のことである。前日、久しぶりに働いたせいか足腰が重かったので、身体をほぐす為にラジオ体操をした。と、わが路地裏にまた悪役顔の牡猫が、のそりのそりとやって来た。近くに何匹かの猫ハウスの住猫がいたが、その前を通り過ぎても、その猫に対して警戒するといった素振りは見せない。私の前も悠然とした態度で横切り、猫ハウスへと入って行った。どうも私の知らぬ間に頻繁に行き来があるようだ。
二日目の仕事からは私一人である。難しくない仕事とはいえ、随分と忙しない。運ばれてくる食器類をせっせと洗っているが、ウエイターは昨夜見なかった顔が多い。これもシフト制の所以であろう。聞けば、あちらこちらの階を掛け持ちしているようで、皆さんと一通り面識に至るのは少しかかりそうである。
また、和食の食器の収納場所を覚えきるのはそれ以上かかりそうだ。実際、若手の調理師にちょくちょく聞かねばならなかった。慣れて余裕がでてくるのはもう少し先のようで、食器類を割らぬよう、久しぶりの緊張感を覚えた。と、その若手調理師が、「これ食べてください」と、茶わん蒸しの一品料理を持ってきた。間違って多く作りすぎたとのことである。正規に注文すれば値段は幾らするのであろうかと思いつつ、遠慮なくパクパクと食べた。思惑通り、今後このようなことが多々ありそうである。
調理師の人たちが帰ってからが、一仕事だ。さっと切り上げて帰る客もいれば、長々と飲み食い談笑をして長尻の客もいる。無論、お客様は神様である、耐えねばならない。ようやく客が居なくなった。業界用語で、ノーゲストというそうだ。だが、これからが本番である。あちらこちらの席から、これでもかというくらい食器が運ばれてくる。さらに、備え付きの醤油注ぎや湯飲みなどが運ばれてくるから、結構な時間になるのである。ワイングラスも下がってきたが、これは、グラスと違い拭きかたが難しく、もう少し慣れてからウエイターが教えてくれるとのことだった。よくテレビドラマに出てくる、バーデンダーがやるやつである。最後に洗浄機を洗って終了ということになる。結構、ハードな仕事だというのが二日目の印象だった。帰りは絶え間なく身体を動かしたため身体が熱くなっている。夜風が心地よかったので、ぶらぶらと散策がてら月を愛でつつ帰路についた。
翌日起きたのは昼近かった。前夜、明日が休みということもあり酒を多少過ごしてしまったのだ。シフト制というのは面白いもので、事前に休みの希望があれば別であるが、いつ休日かというのはシフト表をもらうまで分からないのである。酒を呑みつつ表を眺めていたら、その間隔は二日、三日、或いは四日というようにまちまちである。週末の出勤日が多いようなので、どうも、客の混み具合の予想によるようだ。
平日が休みというのは街の様子が違って見えるものだ。勿論、今まで毎日が日曜日であった身にとって、今更という気もしないではないが、例え半日仕事であっても、久しぶりに労働した後の休日は格別なものだと思った。そこで、街の猫を写すためデジタルカメラを持って散歩することにした。


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