20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:路地裏の猫と私 最終章 作者:じゅんしろう

最終回   18
東京に行ったら、さいたま市にいる旧友の鳴海のところまで足を延ばし、会うことにした。インターネット碁ではなく、本物の盤上で雌雄を決しようというのだ。鳴海は電話口で、「泊りがけで来いよ、足腰が立たなくなるくらい、こてんぱんに伸してやる」と、元裁判官とは思えない様な物騒な言葉を発した。
その様な日々を送っている間、ときおり、あのちびと命名した猫が家の中に入ってくるようになっていた。暖かくなってきたので窓から路地裏の様子を窺い、ちびの姿を見かけると、玄関の戸を少し開けてやるのだ。ただ、私に体を触らせるという距離まではこない。居間の隅で、目を瞑りじっとしているのだ。このようなときの猫は、何を考えているのか、というような雰囲気を感じさせる。そして頃合いを見計らうように、外に出ていくのだ。無論、写真に撮り、パソコンに取り入れている。何度目かのときである。いつものように家の中に入り、居間の隅でうずくまる。私もそのことに慣れてきたので、パソコンに向かいユーチューブの動画を見ていた。これはアマチュアが盛んに映像を撮り投稿している。これまで各国の為政者は都合の悪いところは隠していたが、もう無理である。世界は完全に変わりつつあると実感させるものだ。近頃はその為、テレビを見ることが少ない。ふと気が付くと、玄関の式台のところに白と黒と茶の三毛猫が座っているではないか。さらにその後ろで、同じような猫が座っていたのである。二匹目の猫は同じような顔立ちだから兄弟猫だろう。ただ、顔の辺りにもう一色微妙な模様があり、三毛猫ではない。どちらも猫ハウスの住猫である。二匹ともちびを真似たのか、じっと目を瞑っているのが何となく可笑しかった。以前、スネ子一族がこの路地裏を席巻していたときは、このようなことは決してなかった。我が路地裏のノラ猫の世界でも何らかの変化が起こりうるということであろう。写真を撮ることよりも、何となくかれらを肴に軽くビールが呑みたくなり、冷蔵庫に取りに行くため私が起き上がると三匹の猫は、さっと、外に出て行ってしまった。妻が帰ってきたら、家で猫とこのようなことが出来るかという難題を抱えることになった。
薬を飲み終えた後も、胃の調子は悪くなかった。仕事を辞めたとことで、ストレスも軽減したようだ。
雪も解け、路地裏を往来するノラ猫の数も日に日に多く目に付くようになってきた。中にはお腹の膨れた牝猫もいる。また、出産の季節を迎えるということだ。ただ、周りに無人の民家はないから、かつてのような賑わいを見せることは無い。多くは成長すると何処かへと旅立つようである。人間の世界も同じことであろう、変化のない世界は無いのだ。
私も今日、孫娘という新しい命と会うために旅に出る。


← 前の回  ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4707