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作品名:路地裏の猫と私 最終章 作者:じゅんしろう

第14回   14
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正月が明け仕事も一段落した。久しぶりの連休である。といっても、特にすることがない。我が路地裏は雪で覆われており、ノラ猫たちも猫ハウスで体を寄せ温め合っていることだろう、姿をみせることは少ない。夜、筋向いの内野さんが我が家の玄関先に置く餌目当てで顔を見せる程度だ。我が家を頻繁に覗き込んだ猫はあれから姿を見せない。若いから新天地を目指してでもいるのだろうか。あの用心棒の悪役面の猫も姿を見せなかった。映画の三船敏郎のように悶着のかたがつくと、また何処かへさすらいの旅に出たのであろうか。また、この時期は新顔が姿を現すことは滅多にない。賑やかになるのは春を待たねばならないのだろうか、などと考えていたら、なにやら腹の辺りがどんよりと重く痛くなってきた。市販の胃薬を飲んでしばらくしたら痛みが消えたので、単なる一過性と思ったが、それが始まりだった。仕事を再開し、家に帰って夜食を終えた後、胃の辺りがときおり痛むようになってきたのである。その都度薬を飲むが、だんだん効き目が遅くなってきた。ついに堪らず、近所の開業医に駆け込んだ。
症状を先生に訴えたが、私には別の不安がある。以前、男であるのに乳癌を患っていたのだ。そのことは口に出さなかったが、もしや、癌の再発ということも考えられるのだ。
だが、私の不安などなんのそのというように、「ストレスからくる胃炎か胃潰瘍か、ひとまず二週間分薬を出しておきます。お酒は控えめに」と、口から顎にかけて髭を生やした先生が軽いのりでおっしゃった。患者に無用な不安を与えないためか、それとも性格なのかよく分からぬが、ともかくも服用し始め、酒もいわれたとおり少し控えめにした。さすがに市販の薬と違い効き目は鮮やかであった。これで一安心と思っていたが、薬を飲み終え一週間が過ぎた頃からまた痛み出したのである。また開業医に駆け込むことになった。
「ううむ、胃潰瘍の可能性がありますな。今度は別な薬を飲んでみましょう。それでも治らなければ、胃カメラ検査をしましょう」と言われた。私は内心、うへぃ、と唸った。異物を喉に通すことを想像しただけでも、吐き気を覚えたほどである。多くの男はこのようなことに対して繊細なのだ、身震いするほど厭なのだ。胃カメラは大発明なのであろうが、ここは更に胃カメラを吞まずに済む発明をしてもらいたい、と願うばかりである。
今回は強い薬を二週間分渡された。効き目はあるだろうが、別な言い方をすればそれだけ副作用もある言うことなのだ。基本的には身体に悪いということでもある、などと勝ってなことを思いながら薬を飲んだ。と、どうであろう。効き目があらたかですこぶる調子が良く、全然痛みが無くなり、酒を呑んでも平気である。これは良い、と仕事に精を出した。
だが薬を飲み終え、二週間過ぎた頃また痛み出したのである。じつは皿洗い担当の一人が辞めたこともあり、補充の人員が入るまで勤務体制が更に不規則になっていた。そのこととどう関係しているかは分からぬが、またまた、開業医に駆け込んだ。


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