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作品名:路地裏の猫と私 最終章 作者:じゅんしろう

第11回   11
  V    
今は秋の行楽シーズンである。さらには行事や催しものが多い。ホテルではその種の宴会が多くなるのだ。会場は二階と十二階ということである。その当日は洗い場での時間延長を要請された。ホテル側ではぎりぎりの人員でやり繰りしており、人手不足になるようだ。今夜の宴会は二階で催しされており、空になった大小の皿が下げられてくる。和食の通常営業と並行しているのですこぶる忙しい。ウエイターに訊けば、営業に力を入れているので、宴会はシーズンに関係なく頻繁にあるという。小さな宴会のときは、洗い場は一人であるが、大きな場合は二人だという。今夜は小さな方で一人である。しかし、休みなく動かなければならず、ハードな仕事であり洗い場の人手不足が分かったような気がした。宴会が終わると担当のウエィターが来て、「大石さん、会場へ来てください」と言う。行くと何人かの人たちが後片付けの真最中であった。と、四十年配で髪をオールバックにした担当マネージャーが私に近づいてきて、「食事二割、片付け八割でお願いします」といった。手が付けていない物など、なんでも食べてよいとのことである。見ると数人のウエィターは盛んに食べ、且つ手際よく後片付けをしていた。私もそれを真似てみたが、そうそう上手く食べられるものではない。特に最上階で作られている洋食の類いは、私の年代は胸やけがして食せないのである。泣く泣く残飯用の大きなバケツに入れていく。それにしても、なんとその量の多いことか。豚の餌用にでもなるのであろうが、勿体ないことこのうえない。私の小さい頃は戦後間もなくであるから、食糧難の時代であった。飽食の時代の今、これは何とかしなければと思いつつ、デザートのクリーム類を幾つも食した。これがまた美味いのである。よく女性がケーキ類は別腹というが、よく分かった。そうして、何段かに区切られているステンレス製のカートに詰め込んだ食器を洗い場に運び、また皿洗いに精を出す。
このような宴会の皿洗いを度々担当するようになったが、慣れてもそう食べられないことに変わりがなかった。特に男連中が多い宴会の場合、彼らは酒を呑むことがメインであるから料理の残量が多い。すべては豚の餌となるのである。何のことはない、彼らは知らず知らずのうちに、せっせと豚を飼育しているのだ。やがて廻り回って、我々はその豚を食べることになる。そう考えると、あながち好くできたシステムかも知れないな、と納得し皿洗いに精を出す日々が続いた。その間、小さな食器を幾枚か割った。初めて割った時はショックを受けたが、当日担当の若いマネージャーが、「気にしないでください、それより怪我しないように注意してください」と言ってくれた。割った場合、それを記入する用紙が貼ってあり、すでに幾人もの名前が書かれてあった。厨房やウエィターの人たちもよく割っているようだ。その場もよく目撃したが、仕事柄避けられないようだ。従がって、私もせめて高価な皿だけは割らないようにと、細心の注意を払うようにした。


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