だが、このほどの悲惨な業況はなんとも致し方がない。どうしょうと、途方に暮れた。武具は敵兵から剥ぎ取ればよいが、馬ともなればそうはいかぬ。なぜなら、普段は財の紐を固く締めているつうが、ここぞとばかりに大枚の金を出して買い求めてくれたのである。それも二人連れ立って馬市に行っての事であるから、いなくなったでは済まされぬ。いっそ戦いで死んだことにしょうかと考えたが、顔や態度にすぐ出てしまう豪右衛門の嘘は直ぐに見破られるに決まっていた。あれこれ考えたが、豪右衛門の頭では名案が浮かぶわけもない。 そのとき、近くにいる武具が不揃いの足軽たちを見て、親しい弓組の組頭である岡村充四郎の顔が浮かんだ。名前のとおり四男で、組頭の岡村家に養子に入っていた。その事で同じ養子組みということもあり、何かと気苦労を語り合って仲が良いのである。充四郎も博打好きであった。以前博打で負けて、岡村家先祖代々に伝わる兜を失い、これでは家に居られぬと泣きつかれた事があり、困っていたところを助けてやつたのを思い出したのだ。 あやつに借りを返してもらおうと、さっそく充四郎の持ち場へ出かけて行った。 当の充四郎を見つけて、今度は豪右衛門が唖然としてしまった。兜こそ頭に乗せてはいたが、他に一物もなく褌姿の裸同然という浅ましい格好で、ぼんやりと立っていたのである。充四郎も同じ負け獲られていたのだ。二人は目が合うと思わず互いを指さし合い、わっ、はっ、はっと大声を出して笑った。 こうなれば同じ負け獲られ組がいるに違いない、皆を集めて相談しようと二人で手分けして探すことにした。 半刻後。鎧は着ているが兜も刀も無いという者、或いは逆に兜や刀はあるが鎧が無いという者など裸同然の者八名が揃い、どこかの樹の下で首を寄せあい相談した。 だが、このような出で立ちでどうにかなる訳もない。それぞれの情報を寄せ合うと、戦が明日にでも有るらしいという事だけは分かった。これでは時間が無く、どうにも仕方がない。 と、「ええい、面倒だ。こうなったら皆一緒に討ち死にしようではないか」と、某が叫んだ。 他の者たちは某の名案に、「おおっ、それがよろしかろう」と救われたように賛成し互いに頷きあった。 翌早朝、音頭取りの豪右衛門の所へ集結する事となった。
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