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作品名:深窓の令描 作者:じゅんしろう

第7回   7
惣左衛門は黙って鴻池の話を聞いていたが、福右衛門が一人娘のために大きな別荘を建て、その磐乃が行方知れずになったという話に強い興味をいだいた。さらに高田のいった金策の為というのは、嘘ということになる。惣左衛門は短期間のうちにこれだけのことを調べている鴻池を、あらためて見直す思いだった。
翌日、鴻池は惣左衛門の屋敷を訪れ、洋風の応接間で惣左衛門と向かい合っていた。
「わざわざ来てもらったのは、この家の前の持ち主たちのことを調べてもらうには、一度じかに家を見てもらったほうが良いと思ってね」と、惣左衛門は単刀直入に話を切り出した。
「お屋敷のことで気になることがお有りのようですな。差し支えなければ調査するためにも出来るだけ正確にお話しを伺いたい」
「うむ、そうしよう」
惣左衛門は二人の息子を続けて失ったこと、不動産屋の高田が何か屋敷の秘密を知っていて、たまという黒猫に関わりがあるらしいこと、更に娘とたまが一時見当たらなかったことなど自身が知っていることを包み隠さず鴻池に話した。
話を聞き終えた鴻池はしばらく沈黙した後、「どうも失踪した磐乃と黒猫に深い関わりがありそうですな。私もこれまでに経験したことがないような、かなり厄介なことになりそうな予感がします」と言い、厳しい表情で惣左衛門をじっと見た。
「頼む。なんとしてでも調べて欲しい。二人の息子を失った真相が知りたいのだ」
惣左衛門は深々と頭を下げた。
「分かりました、やってみましょう。早速、まず娘さんとたまという黒猫にお目にかかりたい」 鴻池はまた飄々とした表情に戻り、努めて穏やかな口調で言った。 
久子の部屋は長い廊下を経て、西側の角隅にある。二人が部屋に入ると、丁度登美が白いワンピースの洋服を着せ終わったところだった。すると久子は、何言うこともなく備え付けの安楽椅子にちょこんというように一人で座った。と、それまで傍に控えていたたまは軽々と久子の膝に飛び乗るとうずくまり、そのたまを久子は無言で優しく撫ぜまわす。それが習慣になっているかのようだ。久子はなかなか愛嬌のある顔立ちをしていて、まるで人形のように愛くるしい。
鴻池は年齢より幼く見える久子ということを除けば、何の変哲もない光景だと思った。この黒猫に一体どのような秘密があるというのか見当もつかない、というのが率直な印象だった。それにしても光沢があり色艶の良い黒猫だと思ったが、目は閉じている。言われている、海のような美しい深緑の目を見てみたいと思い、たま、と声をかけてみた。だが、何の反応も示さず、うずくまったままだった。


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