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作品名:深窓の令描 作者:じゅんしろう

第57回   57
 応接間であらためて挨拶を交わしたが、空山には微塵も飾り気というのがなかった。鴻池は空山が今年米寿を迎えたと聞いていたから、嘉永六年ペリーの黒船が来た時の生まれである。だが、軽々とした身のこなしであり、向き合っていると自分がふわりと、何かに包まれてでもいるような感覚を覚えた。その後、夜行列車を乗り継いできた二人のため、用意していた部屋で休んでもらった。それでも二人は昼過ぎに起きてきて、昼食を済ませると早速、これまでの経緯を問うてきた。惣左衛門と鴻池は事件の経緯を空山に対して主観を交えず詳しく述べた。空山はその間一切言葉を発せず、ときおり頷くのみでじっと聞き入った。二人が話し終えると、鴻池が古平の老婦人から委託された磐乃の遺品を、空山は手に取って熱心に見入った。磐乃が写っている写真や、書き留めた和綴じの書物の文字を見て、「気負っているのう…」と初めて呟いた。その言葉を聞いて鴻池は、賢く聡明といわれていた磐乃の本質を、空山が見抜いたと感じた。
「空山導師、私の手紙により自から小樽に出向いた訳をお聞かせ願えないでしょうか」鴻池の言葉に空山は、一瞬、遥か遠くの彼方を見る眼つきになり、「貴方は秦氏のことを色々と調べられたようですな。もともと大師様(空海)と秦氏とは深い関係がありましな。これは大師様の母方の叔父であり、朝廷に仕えていた阿刀大足の引き立てによることが大きい。さらに、阿刀氏と秦氏には繋がりがあったようですな。入唐の際俄かに一介の私度僧から留学僧になれたのも、おびただしい密教の仏典や仏具の購入の費用など、すべてが秦氏のはたらきや援助によるものなのです。その秦氏はユダヤ民族の末裔であります。更には…」と、訥々とした語り口で話しだした。
 それによると、空海が唐に渡った時期は景教が盛んであり、秦氏と交流があったこともあり大きな影響を受け、密教に多く取り入れたというのである。真言宗の本尊は大日如来であるが、ユダヤ教の唯一神ヤハウェイに通じるなどユダヤ教の影響を受けている。更には、入滅に際し弟子たちに、五十六億七千万年の後、衆生救済の為、弥勒菩薩と共にこの世に現れると遺言を残している。これはまさしくユダヤ教の救世主の考え方にほかならない。また、秦氏が創建して全国に広がった八幡神社、稲荷神社は言うに及ばず、伊勢神宮など神道も大いなる影響を受けた。日本人の精神の礎を形作ったといっても過言ではない。例えば日本とユダヤでは水と塩で身を清める禊の習慣があり、朱の鳥居や神輿も古代ユダヤから伝わったものである。鳥居とはヘブライ語のアラム方言で門という意味であり、モーゼが神の禍を避けるため、ヘブライ人に門の柱と鴨居に羊の血を塗らせたことが起源である。したがって、稲荷神社の朱の鳥居は魔除けのためのものなのだ。
古代ユダヤの契約の聖櫃(アークといい、モーゼが神から授かった十戒石板を保管するための箱)と神輿は極めて似ている。聖櫃が神輿へと変化したものであり、日本の祭りの元を作ったと言ってよいであろう。修験道において、山伏は額に黒い小箱(頭襟)を結びつけ法螺貝を吹くが、ユダヤ教徒も同様に祈りのとき額に黒い小箱(ヒラクティリーといい、旧約聖書の言葉が書かれている)を結び、羊の角笛ショーファーを吹く、というように非常に類似している。実際のところ、これらはユダヤ教から伝わった、と言うのが本当のところだろう。一般の生活においても、欧米人は湯船で身体を洗うが、風呂に入る前に身体を洗うのはユダヤ人と日本人だけである。生後三十日に赤ちゃんを神社(神殿)に初もうでさせるが、これは日本とユダヤにしか見られない。また、男子は侍にみられる様に十三歳で成人として元服式をする。ユダヤでは新年を迎える過越祭というのがあり、家族で寝ないで夜を明かす。日本の年越しの習慣と同じであり、期間も正月と同じ七日間である。さらに、丸く平たい種無しパン(マッツォ)を祭壇に重ねて供えるが、これは鏡餅にあたる。
神事である相撲(旧約聖書の天使と格闘したヤコブに由来する)も然り。このように同一性は数え上げたらきりがない、などと述べた。


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