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作品名:神威岬 作者:じゅんしろう

第6回   6
 W
 久しぶりのドライブだった。市街地を抜けると、塩谷という地域から海岸通りになる。右手に海を見ることになり、左手は山並みや断崖である。
 運転席の窓を開けると、強い潮の香が入り込んできた。久しぶりの海の匂いだった。遠く何艘かの船が見えている。小樽から積丹にかけての海岸は、国定公園になっていて美しかった。快適な気分というわけにはいかなかったが、それでも家でくすぶっているよりは気がまぎれた。
 蘭島という地域を過ぎると、ここから余市町になる。街の中心地に、ニッカウィスキーの工場がある。青葉が大学生だったころ、家族でドライブをしてこの工場を見学したとき、ウィスキーの試飲コーナーがあり、そこでつい美味かったので、数杯飲んで過ごした為、青葉に運転を交代させられてしまった、という恥ずかしい思い出があった。
 余市町は積丹半島の付け根にあたり、国道五号線を離れ道道二二九号線に入る。ここからは海から離れ、出足平峠というところを超えて下って行くとまた海に出る。ここからが、多くの小さな岬や奇岩があり、トンネルや覆道があって、積丹半島の景勝地ともいえる海岸通りが続く。
 痛ましいトンネル事故が起きたところは封鎖され、迂回して新たなトンネルが掘られていた。そこを一抹の不安を覚えながら通り抜けた。
 古平町を過ぎ、美しい砂浜がある美国と呼ばれる地域から、左に大きくカーブして山道を上って行く。坂道を上りきり雑木林を抜けると視界が開け、畑や原野が広がっている積丹町の台地に出た。遠く左手側に積丹岳がうっそうと横たわっていた。
 平日のためか、行きかう車は少なかった。自然とスピードがでる。しばらく行くと、道は緩やかな下り坂になり、海に突き当たる三叉路に出た。左手が神威岬への道となる。
 私は左折して、少し行ったところで車を止め、降りてみた。より強く潮の香に包まれた。遠望すると、幾つもの岬が折り重なるようにして見え、霞むようにして神威岬が見えた。道路地図では、七、八キロのメートルのはずであるが、ずいぶんと遠くに感じた。
 ついにここまで来たかと思った。空模様は家を出たときと変わらず、薄曇である。夕焼けを見ることは難しそうだった。しかし、いまさら引き返す訳にもいかない。私はひとつ大きく深呼吸をすると、車に乗り込み発進させた。行きかう車は依然として少ない。
 思ったより早く神威岬に着き、広い駐車場に車を止めた。車の中からあたりを見回してみると、他に一台の車が止まっているだけであり、左手にトイレの建物が建っているだけの殺風景なものだった。
 車から降りるとおもいのほか強い風が吹いていた。
 駐車場は擂鉢上の地形のなかにあり、展望台までは少し上らなければならなかった。


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