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作品名:父の故郷にて 作者:じゅんしろう

第7回   7
 そして、列車は山形駅に着いた。
ホームに降り改札口に近づくと、幟を立てている老人と中年の二人の男が目に付いた。更に近づくと、僕は、あっ、と声を上げそうになった。幟には、大石暁夫と、僕の名前が書かれていたのだ。相沢さん親子だった。相沢さん宅へは、住所を頼りに自分で探し当てるつもりだったから、この日の朝の列車で行くということしか、葉書で知らせていなかった。相沢さんたちは、それから見当をつけて迎えに来てくれたのだ。もしかしたら、だいぶ前から汽車が到着するたびに、改札口に立っていてくれたかもしれない。
僕は二人に近づくと、名前を名乗り、深々とお辞儀をした。ただ、ただ、恐縮した。
息子さんの車で、相沢さん宅に向かった。車中の短いやり取りで、息子の輝夫さんは今、鶴岡市に住み会社勤めをしているが、父親の要請で僕を迎えるために、わざわざ山形市まで来てくれたことを知った。さらに恐縮し、相沢さん親子の暖かい思いやりを感じた。
相沢さん宅に到着すると、夫人は満面の笑みを浮かべて出迎えてくれたが、この人こそが父と係わり合いのある方だった。母の手紙によれば、夫人の母親が乳の出が悪かったため、当時懇意にしていた祖父の家に一人行き、祖母から乳をもらって育ったということだった。父とは乳のみ姉弟なのだ。なにか他に事情があるのか分からぬが、よほど居心地かよかったのだろう、乳離れしても何年も家で暮らし、父と叔父とは姉弟のように育ったということだ。
父との関係によって、初めて会う僕は暖かく迎えられている。人の繋がりの不思議さだが、そのときの僕にはまだ分からない。
息子さんは、すぐ鶴岡市に帰るという。僕の三川町での計画を聞くと、東京に帰る日に、前から母が暮らしていた土橋に行ってみたかったから、土橋まで迎えに来てくれると言ってくれ、約束を交わして、帰って行った。
宴は、相沢さん夫妻と僕との三人で始まったが、孫のような年の差のため、ぎこちないものだった。それでも、僕は父の生前のことなどを話し、夫妻も何くれとなく気を使ってくれて少しずつ打ち解けていった。が、土橋での暮らしぶりについては、父や叔父とのことは面白おかしく話してくれ、祖母は庄内小町と言われるくらい綺麗な人だったと話題になるが、祖父の話は巧みに逸らしているようだった。祖父のことで分かったことは、婿養子で気のいい人というだけだった。やはり、なにか知られたくないことがあるように感じられた。が、もどかしくもあったが、無理に聞き出すのは憚られた。内心、じりじりとした時が過ぎていった。互いに酒が進み、少し口が軽くなった時、僕はさりげなく訊いた。


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