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作品名:父の故郷にて 作者:じゅんしろう

第6回   6
 山形で、いったい父の何を知り、確かめたいのだろうか。これまでの父や叔父の言動から大体の察しはつくが、事実を知った後で、知らないほうが良かったという一抹の不安がある。なんとなく気が重たくなり、ぼんやりと移り過ぎていく景色を見続けていた。
大宮駅で僕と同じ年頃らしい女性が、向かいの席に乗り込んできた。その時、目が合ったので、女性は僕に軽く会釈をした。ぼんやりとしていた僕に、色白で涼しげな目が、飛び込んできたような気がした。僕も慌てて会釈を返し、窓に映った、少し赤くなった自分を見た。このようなことではいけないと思い、深呼吸をして気を引き締めた。
しばらくたって、僕はバックから山形県の旅行案内書を取り出し、読み始めた。
と、よかったら召し上がってください、との声がして、目の前にきれいな両手に乗っている一個のオレンジ色の蜜柑が現れた。そのまま顔を上げると、にっこりと笑いかけている女性の顔があった。
礼を言って受け取ると、僕が持つ案内書に視線を移しながら、山形に旅行されるのですか、と尋ねてきた。はい、と答えると、私もこれから実家のある山形県に帰郷するところです、と言った。それから、話がはずんだ。
女性は東京のある大学の二年生で、休日を利用して、しばしば実家に帰っているとのことだ。福島県の郡山駅で奥羽本線に乗り換えるというから、僕と一緒だ。汽車でひとつ乗り換えれば、女性は実家に着く。僕の実家の小樽ならその三倍ほどの時間を要し、連絡船で海を渡らなければならない。その近さを羨ましく思った。
それにしても、同じ年頃の異性との会話は楽しく、あっという間に時間が過ぎた。郡山駅で急行列車に乗り換え、自由席だったので僕たちは同じ座席に着き、また、あれこれ話し込んだ。
列車が山形県内に入ったころ、筋向いの席に、列車で通学の中学生と思われるセーラー服の集団が、しきりに僕たちのほうを見たり覗いたりしていた。どうやら、僕たちのことを恋人同士と勘違いしているようだ。恋に恋する乙女たち特有の、好奇心いっぱい、というところだろう。
そうしているうち、その中のまだ頬が赤い娘が気恥ずかしげに、僕たちの席に来て、これ食べてください、と言い、二個の飴玉を差し出してきた。僕たちが、ありがとう、と、お礼を言うと、その娘は、急ぎ席に帰っていき、歓声が上がってセーラー服の群れが大きく揺れた。飴玉を含むと、甘酸っぱかった。僕らをふくめ、みんな青春の真っ只中そのものだと思った。
女性は山形駅の二つ手前で降りた。ドアまで送り、開くと同じ年頃の男が迎えに来ていた。二人の様子から、恋人同士のようだ。なるほど、しばしば帰郷する訳だ、と思った。もう会うことはないだろうが、うまくいき、幸せになって欲しいと願った。


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