20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:父の故郷にて 作者:じゅんしろう

第3回   3
しかし、父はさらに痩せ細っていき、衰弱していった。そして、その年も押し詰まってきた師走の中頃に、父は亡くなった。
その年は、珍しく雪がそれまで降らなかったのだが、お通夜の当日雪になり、見る間に積もっていった。
次の日、火葬場で父の遺体が焼かれているとき、外に出てみた。前日の大雪が嘘のように晴れていて、明るい銀世界だった。見上げると、高い煙突から煙が立ち昇っていた。父の煙だ、と思い、目頭が熱くなり涙がこぼれ落ちた。
僕には、上に母が違う何人かの兄弟姉妹がいる。母の実姉の子供だ。一番下の兄を生んでまもなく亡くなった為、その後添いとして妹である母が家に入ったのだ。今はすでに皆、家を出ていて、同居しているのは僕と母が同じ、中学三年生の妹だけだった。
親族会議で、一番上の長男の啓一が店を継ぐことになった。僕とは十三歳年が離れている。兄は高校を卒業すると店を手伝うようになったが、当時、小学生の僕から見ても、はっきり分かるくらい、この兄は身を粉にして働く父とは大違いで、調子のいい遊び人のぐうたらな性格だった。夜な夜な遊び仲間と飲み歩いていた。父は何度も諌めたが聞かなかった。その為、ついに父は兄を家から出した。それから、十年が経っていた。
母は実姉の長男に遠慮していたのか、何も言わなかった。高校生の僕には、発言権は無かった。
兄は例によって、大学に行きたかったら行かせてやる、と調子の良いことを言ったが、僕は断った。兄が店を継ぐと決まったとき、即座に東京に出て、働きながら夜間の大学に行こうと決めていたからだ。兄の助けを借りるつもりは、もうとうなかった。
しかし、まったく就職活動をしていなかった為、働き口は小さな会社しか残っていなかった。結局、品川区にある、従業員が三十人程度の食料品卸会社に就職が決まった。
こうして、実家への不安を残したまま、翌年の春、小樽を後にした。
さいわい社長の人柄が良かった為か、他の従業員の人たちも親切で、働きやすかった。それが救いだった。
少し経って、東京の生活に慣れ始めたころ、恐れていたことが起こった。
母から、金の無心の手紙が来たのだ。それによれば、兄が店を継ぐと直ぐに、昔の遊び仲間が寄ってきて、彼らとの遊びのため、仕入れの支払いのことには頓着せず、店の金に手を付けたということだった。この支払いが滞れば信用を失い、店が立ち行かぬから、足りない分だけ、今回限りだから、頼みます、ということが書かれていた。その金額は、今ある現金のすべてだった。僕は仕方なく、金を送った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4644