「どうした?」 「小樽に行きたいのです」 倉田は陽子の顔をじつと見、ついで倉田を見上げている絹子と恭太をそれぞれ見て、「よし、乗りな」と言うと、子供たちを抱き上げ助手席に乗せてくれた。 「すみません。あの…」と、陽子が言いかけるのを手で制して、「いいから何もいうな、とにかく乗りな。丁度これから函館に行くところで、小樽は通り道だから」と言い、陽子に乗るようせかせた。陽子は地獄に仏とはこのことかと思った。トラックは発進した。 街の中を走っている間、パトカーを目にするたび、心臓が高鳴ったが、幸検問所は設置されていないようだった。旭川市街を離れるまで、ずいぶんと時間がかかったような気がしたが、何事もなく街を離れたときは、さすがにどっと疲れを覚え、手のひらの汗をハンカチで拭った。 その間、倉田は一言も話さなかった。倉田も何事か尋常ならぬことがあっただろうと思ったが、子供たちの手前のこともあり、あえて黙っていた。 陽子は、ほっと一息をついて、あらためて子供たちを見ると、恭太はうつらうつらとしているし、絹子は前をじつと見ているが、眠気を必死で堪えているのは明らかだった。 突然、倉田が陽子に座席の後ろにある仮眠室に二人を寝かせるようにと、指示をした。 運転席は陽子と倉田の二人だけになった。しばらくの間、陽子にとって重い空気が漂うような気持ちにいたったが、耐え切れなくなり、「倉田さんにはご迷惑をおかけします。じつは…」と言いかけると、倉田は、「何も言わなくていい。こんな美人を乗せることはいまだかってないことだから、俺は今楽しいのだ。このまま運転させてくれ」と言い、にやりと笑顔を陽子に見せた。それはいやらしくなくて、じつにさっぱりとした笑顔だった。 「ありがとうございます」陽子は胸が熱くなり涙が頬を濡らした。 その後は、倉田の運転に身を任せた。いままでのことで、どっと疲れがでたのだろう、通り過ぎる景色を虚ろな目でぼんやりと見つめていた。
|
|