これからどうしょうと、混乱している頭で必死に整理しょうとしたが、どうにもならず、頭のなかは、人殺し、という若い女の叫び声だけが駆け巡り続けるだけだった。 ―人殺し。そうだ私は人を殺してしまったのだ、子供たちを人殺しの子供にしてしまったのだ、この私が。 陽子は髪の毛を掻きまわした。 ふいに、父親の正造の顔が浮かんだ。さらに小樽の海が浮かんだ。ともかくも小樽に逃げようと思った。後のことは考えなかった。身体が行動を起こしていた。子供たちが寝ている部屋に入ると、二人を起こした。恭太は眠そうにしてしきりに目をこすっていたが、絹子は陽子の必死の形相に何か重大なことを感じ取ったのか、すぐに恭太に服を着せ始めてくれたので、陽子は金など、必要最小限の支度に取り掛かることができた。 部屋の明かりを消し、ドアをそっと開け、外の様子を窺った。外は何事もないように静かだった。まだ、ここには警察の手が廻っていないが、現場は大騒ぎになっているだろう、遠回りになるが反対の道に出て、国道12号線より旭川から小樽に行こうと考えた。この時間では汽車は動いてはいない、かりに夜行列車があっても駅には警察の手が廻っているだろう、車でのヒッチハイクで逃避行をしょうと考えていた。それも乗用車よりも、長距離トラックになんとか乗せてもらおうと思案していた。ガソリンスタンドで働くうちに、乗用車よりもトラックのほうが親切で乗せてくれるということを、知っていたからだ。 暗がりの細い通りをいくつも抜け、ようやく小樽に通ずる国道にでた。 しかし、ビルの暗がりから何度か長距離トラックを止めようと手を上げたが、どれも止めてくれなかった。陽子は焦り、危険ではあったが少しでも小樽に近づこうと三人で歩きながらトラックを止め、乗せてもらおうとした。何台か止まってくれたが、陽子一人ならばともかく三人連れを見た途端、そのまま発進してしまった。だめかと絶望的になったとき、通り過ぎていったトラックが前方で止まった。急ぎ走りよると、運転手が降りてきた。 「やはり陽子さんか」と、運転手が言った。 「あ、倉田さん」 その人は陽子が働いているかガソリンスタンドの常連客であった。五十代のがっしりとした体格で、一見怖そうに見えたが、ときおり、ぼそぼそという程度の話しからではあったが存外親切で、とぼけた感じで笑わせてくれる人だった。
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