「よくも、この間は恥じをかかしやがったな」 酒臭い息をはく、栄治だった。 「離してけだもの。あんたとはもう関係ないのだから、大声をだすわよ」 とたんに栄治の右腕か、陽子の喉を強く締めた。 「く、くるしい」 「おい、俺をあまり舐めるなよ。別れてやるから慰謝料をよこせ」 「なにが慰謝料よ。私からさんざんむしり取ったくせに、ましてや、絹子にまで手をだそうとして、人でなし」 「けつ、お前の親父もけちだぜ。お前ら親子はおんなじだ」と、栄治は毒ついた。 「えっ、父に会ったのか」 「ああ、この間だな。お前の内縁の夫でございますと、前に動物園に行ったときの写真を見せたぜ」 「卑怯者。父と私は関係ない」 動物園の写真とは、以前栄治と男女の関係がなかったとき皆で行き、撮ったものである。 たまたま来たとき、恭太が評判の旭山動物園に行きたいと言っていたのを、栄治が即座に連れて行く約束をしたのである。子供たちがたいそう喜んだので、栄治と一線を画していたのであるが、普段子供たちと一緒に出かけるということはできなかったので、甘えることにして、仕事をやりくりして四人で出かけたのであった。 そのとき栄治は、かいがいしく世話をしてくれたが、その魂胆がこれであったのか、と思った。 「どうして、父のところが分かったのよ」 「ちょっと調べればすぐ分かるというものよ。それにちょいと近所で聞きつけたが、お前の母親は浮気が親父にばれて、あげくの果てに気が狂って自殺してしまったということもな。近所の酒屋のおしゃべりばあさん、なにもかも親切に教えてくれたぜ」 「嘘だ。母が浮気だなんて」 「本当だぜ、店の常連客とな。それにお前の親父の後妻も五年前に癌で死んだっていうぜ、保険金なんかがっぽり入ったんじゃないのか。二人の餓鬼がこれから学校とかなんとか金がかかるので、ちょいと融通してくれないかと頼んだら、俺の顔をじっと見るなり、帰れこの大馬鹿野郎だとよ。ふざけやがって話にならないぜ」 陽子は毒づく栄治の話に、羽交い絞めにされた苦しさよりも、激しい怒りでいっぱいになった。
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