小樽から旭川に送検されていった陽子を追うようにして、旭川に行き、弁護士との打ち合わせや、アパートの後始末をしたりした。小樽と旭川の往復を繰り返した。 さいわい事件のことも、地元の新聞に小さく報じられているだけだった。 栄治は一ヶ月もすれば傷も完治するということだし、あの刑事が言っていたように、アベックの証言もあって、栄治に非があることは明らかなので、陽子に対する処罰も正当防衛の線でいけるかもしれなかった。 正造はこのかたがつくまで何度でも、小樽と旭川を往復してやる、と思っている。絹子と恭太はそれぞれ近くの小学校や幼稚園に通わせた。もし、誰かが要らぬことをいうとも限らないので、いじめの問題も考えて、陽子と相談して旧姓にかえさせた。 正造が旭川に行くときは、通いの職人と接客担当の女性に店を頼んでいる。その二人から、留守の間、絹子は恭太の世話をかいがいしくしているのが微笑ましいくらいだ、とのことだった。 そうして一ヶ月あまりがたち、何度目かの旭川から帰った正造を見て、恭太は不安な目をした。 初めのころ、正造が旭川から帰ったとき、「おかあさんは?」と恭太が訊いていたのである。そのつど絹子にたしなめられ、「おじいちゃんに今は、訊いては駄目」と言われ、我慢して言わなくなっていたのである。 また今日もおかあさんと一緒じゃない、いつになったら帰ってくるのか、と恭太は悲しくなった。僕の願いが弱いからだと思った。 その次の日、まだ夜明け前に絹子は身体を揺すられているのを感じた。 目を開けると、「おねえちゃん」と、小さな声で呼ぶ恭太の顔がすぐ真上にあつた。 「恭太どうしたの」と絹子は驚いて起き上がり、恭太の両腕を掴んだ。 「うん、お母さんが帰ってくるのはまだだけれど、おじいちゃんが頑張ってくれているから、今にきっと帰ってくるわよ」 「でも…」と恭太は呟き、「おてんとうさまにお願いしに行こう」と言った。 「おてんとうさま?」 絹子は、はっとして、あらためて恭太の真剣な顔を見た。 陽子は日頃から何かお願い事があるときは、早起きしておてんとうさまに手を合わせて願うのよ、と言っていたのである。 絹子は、幼稚園のときに親子三人で、夏の大雪山系の山に登り、日の出を拝んだことを思い出した。 だが、恭太は旭川では一度も日の出を拝んだことはなかった。恭太は、それをしょうと言っているのである。 「うん、分かった。お願いしに行きましょう」 「うん!」 二人は服を着ると、そつとまだ暗い部屋を出た。
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