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作品名:姉弟の詩 作者:じゅんしろう

第14回   14
雨があがった帰り道、政一がぽつりぽつりと離すには、休みの日にひとり大雪山系の登山をしていたということだった。
 ホテルの休日はシフト制であり、二人の休日が合うということはそうあることではなく、今まで山で会うことがなかったわけである。
 その日から、二人はできるだけ休みを合わせようにして、山歩きなどのデートを重ねていった。
 政一は寡黙で女のあっかいは不器用な男だったが、飾り気がなくさっぱりとしていて、一緒にいると気持ちがよかった。
 だが、政一は陽子の美貌に気後れを感じていて、俺なんか、という思いを常に抱いていた。一定の距離を置く付き合い方だった。
 一年が経った。すでに陽子は政一と一緒になって、自分が考えていた家庭を築きたいと考えるようになっていた。ある夜、陽子は女の罠を仕掛けた。
 酒のあまり強くない政一にねだって、居酒屋で酒を呑んだ。すぐに顔を赤くした政一であったが、陽子はかまわず酒を勧めた。
 帰り道、思惑どおり陽子が、足元のおぼつかない政一を抱えるようにして、アパートに送って行った。部屋に入るのは初めてであったが、かまわず入った。政一を横たえ、水を飲ませて毛布を掛けた。あらためて部屋を見回してみると、きちんと整理されていた。理想的だと思った。陽子は政一の横に身を横たえると、その赤くなっている顔をずっと見つめ続けた。可愛い、と、いとおしく思った。どの位たっただろうか、いつのまにか陽子も眠っていた。気配を感じて目を開けると、政一が毛布を掛けてくれているところだった。陽子はその手をそっと握った。政一はびくりとして、手を離そうとしたが陽子は強く握り、胸元に引き寄せた。
 「陽子さん…」政一はかすれ声で言った。
 「私をお嫁さんにしてくれる?」と陽子は訊いた。
 「この俺でいいのか?」
 陽子は黙ってうなずき、自分で毛布を除け、目をつむった。
 白いブラウスのなかで、形のよい膨らみが息づいていた。
 政一はごくりと息を呑み、震える手でブラウスのボタンに手をかけ外していった。


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