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作品名:姉弟の詩 作者:じゅんしろう

第11回   11
じつは十年ちかく前、突然に滝上政一という差出人で、正造あてに手紙が届いたことがあった。
 手紙には、―陽子さんと結婚しました。陽子さんは絶対知らせるなと言っています。
どのような経緯があったかは知りませんが、何年かかろうとも、いっか、陽子さんの心の氷が解けたなら娘の絹子を連れて、家族みんなで会いに行きます。 という短い文と、陽子と政一とあかんぼうとが一緒に写っている写真が同封されていたのである。
 無骨だが誠実さが感じられる政一に好感をいだき、そのときは健在だった享子と二人で、わずかに希望を持ったものであった。
 いつたいなにがあったのだ、と何度も自問した。
 ふと窓を見ると、だいぶ明るくなっていた。カーテンを引いて外を見てみると、夜は明けきっていなかったが、街並みはくっきりと見えていた。人の往来はまだまだこれからだろう。カーテンを閉めようとしたとき、通りの角に一瞬だが人の影が動くのが目の隅に入った。正造は慌てて、カーテンの陰に隠れた。胸騒ぎを覚え、またあの男かと思った。カーテンの隙間から、注意深く様子を窺った。五分、十分と経ったが、何事も変化が起きなかったので、気の迷いかと思ったとき、また人が現れた。こんどは一人ではなく、二人の男がなにやら話を交わし、この家のほうを見た。
 若い方の男がゆっくりとこちらに歩いてきた。通行人を装っていたが、家の前まで来ると、はっきりと二階のこの窓を見上げた。この家を見張っていることは明らかだった。
 少したって、また同じ男が引き返してきて、家の周りをさりげなく見ていった。同じ家の角でまた、もう一人の中年の男と一言、二言言葉を交わしていた。その様子から、刑事ではないかと思った。客として、時々警察官がくることがあったので、勘でそう思ったのである。
 陽子の身に何かが起ったに違いない。二人の孫はどうなったのか、強い不安に襲われた。どうもあの栄治という男に係わりのあることではないかと、苦いものを呑みこむように、息を呑みこんだ。


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