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作品名:続寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

第3回   3
数日後、お釈迦様は極楽浄土の主、阿弥陀如来の御殿に姿をみせていた。御殿は七宝の宝どころか、百千万種の宝で飾られている眩いばかりの超豪華絢爛たるもので、どのくらいの広さなのか見当もつかないほどだ。ここでは大勢の天女がかしずいていた。仏女は若くして亡くなった美しい乙女が選ばれてなるもので、もとは人間であったが、天女は生まれながらにしての天女であった。演舞に優れ、見事な音曲を奏でる。極楽浄土では妙なる調べがどこからともなく聞こえてくるが、じつは天女が演奏しているものであった。身体からは、えもいわれぬ良い香りが匂い立っていて、皆、絶世の美女たちである。
「釈迦如来様、お久しぶりでございます、ようこそいらっしゃいました。阿弥陀如来様はすぐに参ります」と、大勢の天女を束ねている、天女中の天女で空前絶後の美女、美しく鮮やかな衣を纏ったアブサラス(天女一族)のなかでも一番の美女といわれるウルヴァシーがあらわれ、えもいわれぬ声色を発しながら神秘的な眼差しでお釈迦様を見つめ、にっこりと微笑んだ。
かつて、ウルヴァシーは天界の仙女であったがしばしば抜け出し、娑婆世界において妖艶な美貌を武器に、つぎつぎに修行中の人間を誘惑して堕落させてきたといわれている。さらに自由に変身することができ、しばしば洋の東西の歴史に登場してくる傾国の美女といわれているものの大半が、ウルヴァシーではないかともいわれていた。それを天帝が阿弥陀如来に泣きついて極楽浄土に引き取ってもらったのである。阿弥陀如来はウルヴァシーを厳しく咎め、二度と娑婆に舞戻らぬようにしたのであった。さすがのお釈迦様も、ウルヴァシーに会うつど、心のうちに印を結び呪文を唱え心を静めなければならぬほどのほどの、あらがい難い三千世界(広大無辺な大宇宙に匹敵する)第一の超絶世の美女だった。
お釈迦様は、こほん、と空咳をひとつすると、うむ、というように頷くだけで、言葉は発しなかった。会話を交わせば、ウルヴァシーの魔力ともいえる魅力に引きずり込まれそうな恐れがあるからである。ウルヴァシーは、今はおとなしくしているが心の奥底では、いまだ火が消えてはおらぬな、と、お釈迦様はみていた。ウルヴァシーを抑え込むことができるのは、阿弥陀如来唯ひとりであろうとも、考えていた。
阿弥陀如来がその神秘的な美しい容姿をあらわした。阿弥陀如来は男性仏か女性仏かは誰もわからない。すべてのものをひれ伏させる底知れぬ威厳をただよわせている。お釈迦様も三凶神のことがあって以来、なんとなく阿弥陀如来に対して苦手意識を持つようになっていた。そもそも、お釈迦様は無勝荘厳国霊山浄土の主である。いわば極楽浄土では居候の身の上だ。薬師如来の東方浄瑠璃世界など、いろいろな仏国土に顔を出したりしていたが、極楽浄土のあまりの居心地の良さに、永い間留まっていたといってよい。


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