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作品名:続寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

第2回   2
すぐに、まだあどけなさの残る可愛らしい愛燐尼が姿をみせた。浄土に往生してきたときから、その容姿は変わらない。仏女は永遠の美しさを約束されていた。愛燐尼はお釈迦様のそばまで来ると、黒目勝ちの目でまっすぐにお釈迦様を見た。
ほかの仏女は、お釈迦様の前に来るとだれもが目を伏せ、恭しくかしこまるのに、愛燐尼だけは違った。と云って挑戦的ということではない。穢れをしらぬ天真爛漫ゆえなのである。それゆえ三凶神に対しても、気味悪がることはなく親切に応対したのだ。三凶神が娑婆世界に帰ってから、お釈迦様は愛燐尼にしばしばお茶の給仕を命じた。と云って三凶神とのことを訊くことはなかった。黙ってお茶を飲んだ。その間、愛燐尼はどのように三凶神と接したのだろうかと想像したりした。三凶神は毎夜の宴会では放歌高吟の大騒ぎであった。その歓声は、しばしばお釈迦様の部屋まで聞こえてきたりしたほどだ。そのつど、お釈迦様は腰を抜かした己の不甲斐なさに耳を塞いだ。が、三凶神が去り、また静かな日々を取り戻した後、妙に三凶神のことが気になりだし、応対していた愛燐尼に身の回りのことを世話させるようになったのだ。初めは、愛燐尼がなにか三凶神のことを話すことを期待した。が、一言も三凶神のことを話すことはなかった。お釈迦様がじれて、それとなく三凶神のことをほのめかすが、無駄なことだった。が、愛燐尼の無邪気さを心地よく思い不思議と安らぎを感じたので、そのまま世話を続けさせた。そして時がたった。
それが近頃、三凶神の夢を頻繁に見るようになったのである。
今朝はこれまで三凶神のことは素知らぬ風を装っていたが、その限界を超えた。
「これ、愛燐尼。以前、三凶神がここに来たとき世話を頼んだが、その時のことを少し話して聞かせてはくれぬか」と、お釈迦様は単刀直入に訊いた。
一瞬、愛燐尼は思わぬ問いに目を見開いたが、すぐに真意を察したのであろう、こくりと頷くと、よどみなく話をしだした。
ほかの仏女は皆眉をひそめていたが、三凶神は素直な神様で、ちっとも気味が悪くなかったということ。愛燐尼相手に、娑婆での事々を面白おかしく語ってくれたが、とても楽しかったということ。宴会は高歌放吟の大騒ぎであったが、則を踏み外すことなく、本当に自然のままの思いをそのまま出していたということなどだが、最後に、あの方々は心根が美しい、といった。
お釈迦様は話を聞き終えると、あらためて愛燐尼を見た。自身の夢に出てきた三凶神に対する思いと、まったく一致したからである。愛燐尼は素直ゆえ、そのままを受け入れ感じたのだと思った。同時に、また三凶神に会いたいと強く思った。さらになにか胸騒ぎめいたものを感じ、是非会わねばならないとも考えた。お釈迦様は会うための思案をあれこれと巡らせはじめた。


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