ちょうどその時、配下の天狗が大皿にてんこ盛りの串団子を持って帰ってきた。波洵が恭しく釈迦様の前に差し出す。 「これは?」 「串団子というものでございます」 波洵がいうと、「この御手洗団子というものは美味しゅうございますよ」とウルヴァシー。もはや夫婦気取りかと、お釈迦様。 お釈迦様は御手洗団子を手に取り、醤油味がきいていて、たっぷりと甘い汁で包まれた団子を一口食べると、ううむ、美味じゃといった。 それを見て、波洵は涙でむせんだ。 「ささ、皆も食べよ」というお釈迦様の言葉に、波洵や天狗たち、ウルヴァシーと愛燐尼、三凶神や七福神たち、さらには勢至菩薩も食べたのであった。 やがて、別れの時がやってきた。 最初は、波洵とウルヴァシーたちが他化自在天に帰ることとなった。心を入れ替えた波洵が呪文を唱えると、今度は黒雲ではなく真っ白な雲が沸き起こる。が、ウルヴァシーは波洵たちを待たせ、愛燐尼となにやら話し込み抱擁を交わした。やがて白雲に乗り込むウルヴァシーに対して、波洵の配下の天狗どもはまるで主人をむかえるように恭しく礼をした。すでに波洵とどちらが他化自在天の主か分からないほどだ。それを見て三凶神は、すでにかかあ天下か、と、波洵にウルヴァシーを掻っ攫われたかのような心持になっている腹いせに、小さな声で悪態をついた。だが、波洵は超絶世の美貌の新妻を得た喜びで、有頂天のようだ。 そして皆が今生の別れを惜しむかのように手を振りあうと白雲は、あっという間に空の彼方へと遠ざかって行き見えなくなった。 まるで、仏殿のなかは火が消えたようになった。それほどウルヴァシーは皆を魅了していたのである。七福神も次の神社仏閣を廻るために、去って行った。 勢至菩薩が愛燐尼を伴い極楽浄土に帰っていくとき、三凶神はウルヴァシーとの話が気になったので、どんな話をしたのじゃ、と訊いたが、それは秘密、と悪戯っぽく笑って答えなかった。さらに、もとの姿にあらわしていた三凶神が、勢至菩薩にひとつの頼みごとをした。それは、町人姿が気に入ったから、我らにもその変装の術を伝授させていただきたいというものである。勢至菩薩は、珍しく微かに笑みを見せ、かなえてしんぜよう、と、なにやら呪文を唱え、三凶神たちに息を吹きかけた。 「これで、心に思えばいつでも先ほどの町人姿になることができよう」 ありがたや、これで生まれ変わった愛燐尼に人間の姿で会うことができようと、三凶神は喜色満面である。 ふたりが金紫の雲に乗って西の空の彼方に去っていくのを、三凶神は、愛燐尼よ、きっと娑婆に来てくれよ、と手を振り続けた。
|
|