仏殿のなかはひとりを除いて和気藹々とした雰囲気が漂った。 「愛燐尼の傷ついた手はいかにするのか」と、波洵に詰め寄るウルヴァシー。その涙ぐんだ姿の超美しいこと、これには魔王波洵も大弱りである。 「極楽浄土に帰れば、もとに戻るであろう」とのお釈迦様の言葉に、「残念ながら、魔王波洵の怪物姿には非常に強い恨の気で満ち満ちておりましたゆえ、浄土に帰っても治りませぬ」と、姿勢菩薩はすまなそうにいう。 「なに、それは困った。私のせいでこのような目にあわせてしまったのか」と、お釈迦様は落ち込んでしまった。それを見て、またウルヴァシーの非難の目を向けられて、身を小さくさせてしまう波洵である。波洵はすでにウルヴァシーに心を奪われてしまっていた。 「ただ、ひとつ手はあります。いちど現世に戻り、その後浄土に帰りますれば元に戻ります」と、姿勢菩薩。 「しかし、輪廻転生は軽々しいものではなかろう」とお釈迦様。 その問答を聞いていた三凶神が二人の前に進み出てきた。 「どうか、お願いでございます。愛燐尼を娑婆に生まれ変わらせてくださいませ」と、お釈迦様と勢至菩薩に対して三凶神一同懇願した。 「なにゆえじゃ」 「はい、我らは、いままで人間に対しては疎まれる存在でございました。愛燐尼とは深い縁のようなものを感じでおります。さらに申すならば、我々にも無条件で愛する存在が欲しいのでございます。陰ながら守ってゆき、我らが存在していくゆえの心の支えがあればこの上ない喜びでありますから、どうか、お願いでございます、愛燐尼を娑婆に生まれ変わらしてくださりませ」と、三凶神は強い思いを共有していたと見えて、皆は一言一句違えることなく同時にいったのである。 ううむ、と、お釈迦様は唸って、勢至菩薩を見た。 「波洵も今後心を入れ替え、生まれ変わるようでございます。これも三凶神がいたればこそでありますから、阿弥陀如来様に私から強くお願いしてみましょう。きっと、厭とは申さぬことでありましょう。これ愛燐尼、そなたはどうじゃ」と、姿勢菩薩の問いに、愛燐尼はこっくりと同意の意思を示した。ウルヴァシーもほっとしたようだ。勢至菩薩はよほど自信があるのか三凶神と愛燐尼に対して、任せなさい、という表情で頷いた。 これには三凶神一同、喜びに満ちた表情で深々と頭を下げた。 と、今度は波洵がお釈迦様の前に進み出てきた。
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