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作品名:続寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

第1回   1
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お釈迦様は夢を見ていた。そこは金、銀、瑠璃など七宝の宝で飾られ眩いばかりの美しい野辺で、あの三凶神と仲良く酒を酌み交わし談笑しているものであった。つい冗談もでたり、どこからか聞こえてくる妙なる調べや美しい鳥のさえずりに合わせて、歌も唄ったりした。とても愉快な気持である。三凶神も皆にこにことしていて、かつて、お釈迦様の腰を抜かせたすざましいばかりの不気味なものではなく、愛嬌さえ感じさせる愛すべき笑顔である。三凶神の語る娑婆世界の話はとても面白く刺激的であり、何度も笑わされた。もっと話を、と求めたとき、三凶神は、ではこれでお暇申し上げます、といい、帰ろうとした。引き留めると、歓楽極まりて哀情多し、と三凶神は口々にいい、美しい蓮華の花が咲いている清浄なる池につぎつぎと飛び込み、娑婆へと帰って行った。ひとり残ったお釈迦様は、未練を残した手をむなしく差し伸べたまま、ああ、と溜息をついた。
そこで目が覚めた。
お釈迦様は豪華な布団の中で、しばらくそのまま見事な絵画が描かれている天井を見ていた。だが、それは目には入っていなかった。やがて虚ろな目で、これで何度目だろう、と呟いた。
じつは、このところ同じような夢を見ていた。自宅の豪華絢爛たる大広間での宴会、あるいは大勢の見目麗しい仏女がはべる妓楼での宴会などであった。どれも三凶神と、おおいに美酒に酔いしれ、歓声をあげた。が、宴がおおいに盛り上がり、これからというときになると、三凶神はすうつというように消えていった。ひとり取り残されたお釈迦様は、なんとも云われぬ寂しさにみまわれ、がっくりというように首を垂れるものであった。
三凶神との出会いと別れから、随分と経っていた。醜態を見せた自身の情けなさから、ろくに三凶神と言葉は交わさぬままの別れであった。そのときは、もう少し何か話をすればよかったかという程度のものであったが、時がたつにつれ、だんだん後悔という念が強くなっていた。なにか借りができているような思いをも抱くようになっていた。自責の念といってよい。そうして、このところ度々三凶神の夢を見るようになったのだ。
お釈迦様は半身を起すと、また、私としたことが、と呟いた。
しばらくそうしていたが、なにかを思いついたようで、かたわらにある銀の呼び鈴を鳴らし、これ、愛燐尼はおらぬか、といった。


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