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作品名:官位を授かった象 作者:じゅんしろう

第8回   8
京の都についたのは夜も更けたころである。友親はさすがに疲れていた。総長からは帰京しだい家に来い、と言われていたが、どうにも身体がだるく熱っぽい。長時間の川風が応えたようだ。さらに、これから総長との謀議には耐えられそうになかった。少し、食らわんか船の人々の荒っぽさを真似ることにして、約束を無視し、そのまま家に帰って寝た。
起きたのは昼過ぎだった。幾分、身体の具合が良くなったように思うが、だるさは残っていた。家のものに、今、早朝京に帰りつきました、夜陰に乗じてまかり越しまする、との短い文を総長に届けさせた。友親にしては、粗野な文である。
夜、友親は総長の屋敷にいた。例によって、総長はすぐには現れない。友親は頭の中で、ばかやろう、と罵った。そして、ふっと、唇の端に笑みを見せた。食らわんか船の人の顔が浮かんだからである。ばかやろう、と声に出したかったのだが、辛うじて止めた。
総長は、その博徒の親分のような面構えを現し、ご苦労でごじゃる、と容姿と似合わぬ声を出した。
友親は、象の特徴を書きとめ用意してきた紙を取り出し、説明した。総長は、その都度、ほー、とか、へー、とか声を出すが、実際、実感は湧いてはいないようだ。無理からぬことかもしれない。一見は百聞にしかず、とはよく言ったものだと、友親は思った。
だが、総長は一通り友親の説明を聞き終えると、こんどは自分の仕入れてきた知識をもったいぶりながら披露しだした。それによると、象は安南国から来たこと、象一行は二十六日に京の都に入り、浄華院の仮小屋に収容され、二十八日に帝が謁見する手はずになっている、ことなどだった。
「そうすると、きやはるのは明日ですな」
「そないだ。その前に官位を決めておかねばならへん」
「総長さまは、すでにお考えになっいるさかいはおまへんどすかいな」
「どうしてや?」
「賢明な総長さまならば、あれこれ思案されておるでありましょう」
すでに総長は自分の案を言い出したくてうずうずしているのが、顔にありありとでているのである。友親は、顔に書いてあるとは言わない。
「うむ、じつはしとつある。象は安南国から来たさかい、安南従五位象や。どないだ」
「ほう、それならば帝に謁見可能でごじゃりますな」
「そうだろう、これでいこか」
「いえ、ここはいまひとつ慎重に勘案されたほうがよろしいかと」
「なんでや」総長は自分の案が復されたことに、むっ、となりすぐに顔にだした。
「安では、帝に謁見していただくには、安っぽい字はあきまへんと異議がはやはるかもしれません」じつは、友親も昨夜から官位を考えていたのである。
「ほう、ほんに。そりゃ、あかんわな」
「では、さきほど安南国の広南地方いうところの産といわはりましたから、安南を広南にして、さらに従四位白象にしては、いかがでおじゃりますか」
「ほう、広南従四位白象かいな。しかし、階位が高すぎやおまへんか?」
従四位ともなれば、並みの大名より上なのである。さらに、いまの総長と同じである。


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