三人との取り決めで、決して店を仕舞う時刻までは近寄らず、農作業をすることにしていた。お客に自由な雰囲気で品物を選んでもらう為、あくまでも無人の店を貫こうとしたのである。ただ、噂好きの松竹梅トリオや、やはり近所の、とめ、つめの末っ子コンビが様子を見に来たりしていた。とめ、つめとは、どちらもこれで子供はお仕舞いという意味である。昔の人は、貧乏人の子沢山とはいえ、頓着せずひどい名前を付けたものだ。二人は、女同士の寄り合いなどがあると、三の里の女たちのように、ハイカラな名前を付けてもらいたかったと、愚痴を言うことがあった。三の里の女たちは、きく、はる、るいなどという名前が多かったのである。 トキは弥吉と二人で、家の裏手で農作業をしながら、やはり、自分たちの店のことが気になった。店に飛んで行きたいという誘惑に駆られたが、じつと我慢をした。無論、すぐに期待はせず、口コミなどで、徐々に売れていけばいいと、三人で話し合っていたが、やはり、どうなっているだろうかとの期待と不安があった。だが、それはそれで楽しみであった。トキは、久しぶりに充実した日を送り味わった、と思った。 夕刻になって農作業から戻ってみると、すでに店の前では、シゲとヨシがいた。 トキの漬物が二袋、シゲの濁酒が一瓶、ヨシの甘辛炒めが三袋売れていた。それに、亭主たちの取り分の生野菜がいくらか売れていた。料金箱を開けてみると、所定の金額が入っていた。最悪の場合、全然売れないことも想定していたので、金額的にはわずかであるが、初日にしては上出来だと思い、さらに、購買者の善意を信じてよかったと思った。これからも、やってゆけそうな気がした。後は観光客に、いかに知ってもらい、購買意欲が湧くような工夫をしなければならない。ヨシとシゲにそのことを言うと、同じ思いのようで、やや上気した顔を傾けた。三人はその場で金を分け合い、店の後片付けをした。 こうして、店の第一回目の開店が、まずまずの成果をあげて終わった。 次の週の開店まで、トキたちは話し合い、いろいろな工夫を実行した。品物を綺麗な笊に入れたり、さらに、要望や意見がある人のために、投書箱を設けたりした。客と顔を合わせることはないが、気持ちが触れ合い、無言の会話ができると思ったからだ。トキたちは、わくわくとした毎日を送るようになった。 その間に、村長選挙の公示日が近づいてきていて、亭主たちは連日、夜、一の里の集会所に出かけて行き、帰りはいつも遅かった。あまり酒は呑めない弥吉だが、決まって顔を赤くして帰ってきた。弥吉の選挙の話しには、さほど興味はなかったが、並吉と好子の話が気になった。それによると、並吉は父親からこっぴどく叱られ、選挙が終わるまで、勤めが終わったらすぐ家に帰ってくるようにと厳命されたとのことだ。父に似ずおとなしい性格の並吉は、黙って従っているという。好子も同じようらしいとのことだ。その証拠に、学校までの送り迎えに、自宅から自動車で送られ、帰っていくということだ。
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