「おかげさまで、並吉と好子の結婚が来春に正式に決まりただ。媒酌人は、村長の村井大助さんにお願いすることとなっただ。これもひとえに、トキさんのおかげずら。本当にありがとーございまへら」 「いや、それはおめでとーござんす。本当に良かった」 「あのー、じつは、並吉さんと好子が、是非トキさんに、結婚式に出てもらいたいというのずらけれど…」と、静は少し言いにくそうにしているので、「分かっていますよ。おらが出れば、今度のことがばれてしめぇうからね。並吉さんと好子さんには、おめでとう、とおらが言っていたって、それだけ、伝えてまっしょ」 「ありがとー、トキさん。こんど、ほとぼりが冷めたころ、二人で、ゆっくら温泉に浸かりに行きましょうよ」 「ああ、それは良いずら。そのときを楽しみにしているずら」 トキは電話を切ったあと、静と村井大助の長い風雪をへての再会は、どのようなものだっただろうかと思った。トキの胸のなかにも、せつない思いが駆け巡った。 だが、これで本当に一仕事を終え、晴れ晴れとした気持ちになった。このような経験は一生に一度のことだろう。これを成し遂げられたことは、無人販売所を始めて、道を切り開きだしたときと重なったからではないかと思う。そして、良き隣人と友達がいたからだ。自分の財産だと思った。 数日後のことである。
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